嵂過去編

第3話

晴れた夏の日。セミがミーン、ミーン、ジジジと鳴いている。

セミの声を聞くだけで暑苦しい。僕は自分の席で本を読んでいた。


「嵂ー!」


何読んでんのー?と誠一が本を覗くようにして見てきた。蒼井誠一(あおいせいいち)は、学年で1番人気と言ってもいい人気者。そして勉強もできるしスポーツも得意。そんな誠一は僕のところによく来てくれていた。


「ん、サファイアの探偵っていう本」

「何その難しそうな本...よく読めるよな〜」


誠一は苦そうな顔をして、だけど楽しそうに笑った。僕はこの時間が1番好きだった。誠一と、喋って笑って、その時間が何よりも楽しくて、面白かった。だけど幸せな時間はいつまでも続くわけじゃない。僕と誠一との間の時間は、早くに壊されてしまった。


僕が学校に行こうと玄関を開けると、誠一が立っていた。


「よっ!」

「なんで居るの?」

「ちょっと嵂に頼みたいことがあるんだ!」


誠一が頼み事なんて珍しい。誠一は問題事を1人で解決することが多かったからだ。でも僕は何より、頼られたことが嬉しかった。


「で、どうしたの?」


僕と誠一が学校へ行くのに歩いてる途中、僕は気になったので聞き出した。


「それがさ、この前嵂が読んでた本貸してくれないか?」


あの本嫌いの嵂が、僕に貸してほしい?何かの間違いか、冗談かなと思いつつ何故か聞いてみた。


「どうして?誠一本、嫌いじゃん」


そう言うと誠一が言いにくそうに口を開いた。


「いやー、見るのは俺じゃなくて妹なんだよ。なんか、そのサファイアの探偵の書いてる人が妹の好きな作家らしい。」


妹、星愛ちゃんの事か。星愛ちゃんは誠一の2つ下の妹。何度か誠一の家にお邪魔させてもらった時、会ったことがあるが、第一印象は明るくて誠一によく似た女の子、だった。似ていると言っても顔とかではない。明るいとこや元気なところが誠一にそっくりだった。そんな星愛ちゃんが好きな作家さんがいるなんて!誠一も本好きになればいいのに。そう思いつつ、僕は星愛ちゃんに本を貸すことにした。僕はいつも本をカバンの中に入れているのでカバンから本を取りだした。


「おっ、サンキューな!」


誠一は僕から本を受け取るとカバンの中にいれた。カバンの中に見えたくしゃくしゃのプリントは無視しておこう。

僕はふと、時間のことを思い出した。

近くの公園の時計を見ると、“7時59分”の位置に針が指してあった。誠一も僕の視線が気になったのか同じ方向を見ていた。僕と誠一は同時に顔を合わせ、大声で叫んだ。


「「遅刻する!!!」」


誠一は僕の腕を引っ張り、自慢の足で学校へ急いだ。それが不幸の種とは知らずに。


信号で止まっている最中、誠一は随分と焦っていた。隣で、やっべどうしよ、と独り言を言っているのがわかった。そして信号が青になった途端、誠一は急いで信号を渡ろうとして早歩きになっていた。


「嵂!早くー!!」


待って、今行く!と僕も信号を渡ろうとした瞬間、キキー!という音と、ドンッという音が一斉に響いた。僕は、何があったかよく分からなかった。周りの人は、悲鳴をあげている。冗談だと思いたかった。嘘だと言って欲しかった。僕は誠一の傍に駆け寄り、大声で泣き叫んだ。頭から血を流し、小さく痙攣している。本当に、最悪だった。最悪すぎた。僕が、助けてあげれればよかった。危ない、と声を出せばよかった、僕が代わりになればよかった。ごめん、ごめん...と何度も何度も小さく呟いた。運転手の人は震える声で、こう言った。


「お、お前が悪いんだからな!」


僕はその言葉を聞いた瞬間、自我を失った。そこからはほとんど覚えていない。ただ、覚えているのは、救急車の音と、目の前にいる運転手の、怯えた顔だった。僕が殴りかかろうとしたのを周りの人が抑えてくれたらしい。

僕が目覚めたのは、自分の部屋のベッドの上だった。

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不良は不良のトモダチしかいない。 夜瀬 冬亜 @yoruse_1115

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