第2話
僕が次の日学校へ行くと、後ろから大きな声で声をかけられた。
「おぉ!昨日の!怪我大丈夫かぁ?」
笑いながら駆け寄ってくる彼女は昨日とは似ても似つかなかった。昨日の彼女は冷静で、クールで、少し怖い印象があった。だけど、今僕の前にいる彼女は、目を輝かせながらこちらに近寄ってきた。まるで犬みたい、と僕は思ってしまった。
「あ、そういや自己紹介まだだったな」
彼女は前髪を留めていたヘアピンを取り、もう一度ヘアピンを前髪に留めた。
「私は神野玖々麗(こうのくくり)。よろしくぅ」
彼女はヘラッと笑い、手を首元にやった。
そうだ。神野玖々麗...。学校では少し噂の『くくり』だ。『くくり』は所謂不良で、他校の生徒に喧嘩を売って病院送りにしたり、カツアゲしたりと、幾つか学校で問題を起こしていた。
学校の中なので廊下や教室が、ガヤガヤとうるさかった。
「僕は、白榊嵂(しらぎりつ)。昨日は助けてくれてありがと」
「困ってるやつ助けるのは当たり前だからなぁ。」
神野さんは僕の顔の傷口を触りながらそう言った。
「嵂、お前は私のことが怖くないわけ?私のこと知ってると思うんだけど。」
愚問な質問だった。いきなりすぎて何を質問されたかよくわからなかったが、理解するのに時間は大してかからなかったし、答えもすぐに出た。
「知ってるけど、怖くない。だって僕を助けてくれたから」
これは僕の1部の本音だ。
そう言うと神野さんは一瞬驚いたが、すぐに爆笑しだした。
「ぶ、はははっ...!お前面白いなぁ!」
神野さんは僕の背中をバシバシと叩き終わったあと、ポケットから小さな飴玉を出して口に放り込んだ。
少ししてからガリっという音と同時に神野さんが喋りだした。
「私さ、まともなトモダチ居ねぇんだわ。」
「え...」
「あ、でも親友は居るんだぜ?」
「...そう」
小学校からの幼なじみでなぁ、と僕の顔を見ずに、外を見ていた。その顔は、どこか寂しそうな顔だった。
外からはヒューと冷たい風が吹いてくる。
僕と同じだった。僕もトモダチが居ない。けど、親友はいた。そいつは保育園からの幼なじみで、いつも一緒に笑っていた。皆から人気者で、スポーツも勉強も出来た。だけど、僕が中学1年生の時、アイツは交通事故に遭って亡くなってしまった。僕と学校に行く途中、遅刻しそうになって急いでいたら、信号無視した車に跳ねられて...。僕が代わりになれば、僕が代わり...。と何度も何度も悔やんだ。だけど、悔やんだところで何も変わらなかった。
「どうした?」
神野さんの声でハッとした。僕はいつの間にか涙目になっていた。神野さんは幸い気がついてない。
「ううん、なんでもない」
じゃあ、と言って逃げるように僕は神野さんを置いて自分の教室に入っていった。
「よーしじゃあHR始めるぞー」
2年3組担任、水上先生の声が教室に響き、先程まで騒々しかった教室の中はシン、と静まり返った。
先生は淡々とHRを済ませ、授業にうつった。
僕は別に勉強は嫌いじゃない。けど別に好きでもない。
カッ、カツ、という音をたて、水上先生が黒板に文字を書いていく。不意に眠たくなってその眠気を覚まそうと窓の外を見た。今日は晴天で、鷹が飛んでいた。
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