第2話:稼げる方法、知ってますby三月

間違えてプロローグ消しちゃってた、かな?もしそうなら、すみません。


――――――


 三月を部屋に戻し、千佳を見送って30分ほど。俺は管理人室で一人頭を悩ませていた。


 どうになしなければ、と思うものの、そこには問題は山積みだった。

 どの大学に行くかによっても必要な費用は変わってくるし、そもそもどうやって金を捻出するかという話である。

 マンション経営は安定こそすれ、突然一気に収入が増えることはない。会社でいうところのボーナスもなければ、残業代だって出ない。稼ぐ手段は大きく限られる。


 となれば、残すところは。


「副業、とか……?」


 口にしてみるものの、何をすればいいのかわからない。噂のウーバーなんちゃらは下火だと聞いたし、それほど稼げるとは思えない。初期投資が少ないという意味ではいいのかもしれないが、それならアルバイトでもやればいいような気もする。

 そして、マンション管理をしながらのアルバイト程度では到底、足りない。


「……こういう時は、一人で悩んでも仕方ない、か」


 つい先日、一葉達に言ったことを思い出し、俺は出かける準備をすませる。

 すでに一葉達の引っ越しは住んでおり、新生活に向けて準備を着々と済ませている。特に、四花なんかは明日から新しい小学校に通うことになっていた。どうやら、小学校についてはここに来る前から話を進めていたらしい。


 ピンポーン。


 俺は105号室の前までやってきて、インターホンを鳴らす。多分、まだ荷ほどきをしたり、配置を考えている最中だろう。話をするついでに、少し手伝えればいいかな、なんて思っていた。


『………はい』


 インターホンを出たのは、一葉だった。


「悪い、話があるんだが」

『………ちょっと待っていてください』


 どことなく暗い声音。もしかして、と思いながら、一葉が出てくるのを待つこと10秒ほど。ガチャリ、と扉が開いた。


 扉の隙間から、一葉がぬるりと半分ほど顔と体を出した。

 顔は、なぜか少しだけ赤かった。


「………こんにちは」

「なんで体半分?」

「この前のことと言い、三月のことといい、合わせる顔がないというか……」

「……まあ、とりあえず中に入れてもらえる?」

「は、はい」


 玄関をくぐると、甘いの香りが漂ってきた。玄関横に置かれる、バラの香りの消臭パワー君の香りだろう。

 リビングまでの廊下の途中、横に見えた扉には「一葉/四花」と「三月/双海」とかわいらしく書かれたプレートが掲げられていた。


「あ、おにーちゃん!」

「……………」



 筆箱の中身を確認しているのか、文房具を机の上に並べる四花。それに、四花の者と思われる新しい教科書に、名前を書いている双海の姿があった。

 部屋の間取りは俺の使ってる部屋と全く同じだが、当然ながら、家具の配置は全く異なる。テレビは俺が使っているものよりも一回りほど大きいし、クマのぬいぐるみやゲーム機が、棚の上にはおかれていた。

 多分、実家の方から持ってきたものだろう。部屋大きさのわりに、テレビのサイズが異様に大きく見えた。


「明日から新しい学校にいくんだって!」

「おー、よかったな。友達作るんだぞー」

「はーい!」


 よしよし、と頭を撫でてやる。この子は将来、とんでもない小悪魔になる予感がする。今の内からその片鱗が、ちらちらとこちらの様子をうかがっているように感じるのだ。


「双海、悪いんだけど、準備はほかの部屋でやってくれる? 四花に聞かせるようなことでもないし……ついでに、三月を呼んできて」

「わかった。ほらいくよ、四花」

「おにーちゃん、また後でね!」


 机の文房具を拾い上げて、バイバーイ、と手を振る四花に、俺もまた手を振り返す。

 彼女達が三月と双海の部屋に入っていくと、少しして、三月がそこから出てきた。


「西ヶ原さん、あの……」

「三月、いいからこちらに来なさい」

「はい……」


 何か言いたげな三月を制して、一葉がカーペットの上をポンポンと叩いた。

 続いて、一葉が「に、西ヶ原さんも、どうぞ」と恥ずかしそうに言うので、俺は彼女達とは対面側に座った。


「まあ……まず、さっきのことは忘れよう。それがお互いのためだ」

「………はい」


 三月は小さく頷く。そこには先ほどまでの勢いなどなく、もしかしたら、ここまで声が聞こえてきていたのかもしれないと思い立った。一葉にしっぽりと絞られたのだろう、その表情はかなり暗い。


「ええと、それが目的じゃないんですか?」


 一葉が聞いてくる。


「まあ、それに関連する話なんだけど……あれから、学費のことってどう考えてる?」

「ああ……それなら、余り気乗りはしませんが、奨学金を使わせてもらおうかな、と考えています」


 一葉はスマホを軽く弄り、俺の方へと見せてくる。


「大学によっては、奨学金制度が充実しているところもあるみたいです。問題は、双海と三月の志望校がどうか、という話なんですけど」

「まだ志望校は決まってないってことか」

「はい。それに、奨学金って要するに借金ですから、卒業後の生活が少し不安でもあります」

「………まあ、返せなくて途方に暮れる人も、世の中には多いからなぁ」


 ニュースでもよく聞く話だ。それに今はどこも不況というし、安易に手を出すものでもないように思う。

 それになにより、大学に行けといったようなことを、大見え切った俺としては、あまり苦労を掛けさせるわけにもいかないというのもある。


「最悪、なりふり構わなければ何とかなるかもしれないけど。マンションの賃料あげるとか……クレームは覚悟しなきゃだけど」


 千佳には貯金を崩せばといったが、それはあくまで現段階での話。言った通り、賃料をあげるなどして、貯金と今後の収入も合わせれば、全員分、何とか足りるかもしれない。


 問題は、俺の踏ん切りがつかないということだ。


 だって老後とかめちゃくちゃ心配だし……マンションの耐久年数などを考えると、そう気楽に身構えていることもできないのである。

 我ながら女々しいなぁ、などと考えていると、三月が何か言いたげにしていることに気が付いた。


「………あの」


 あの目だ。

 三月は、あの目を浮かべていた。

 何かを言いだそうとする、あの目。

 今度は何だ、何が来る……そう身構えること少々、ついにその口火は切られる。


「Vチューバ―って、稼げるらしいんですけど」


 さっきのことといい、さてはこの子、世の中を舐め腐ってるな。

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27歳独身のマンション管理人、四人娘の父になる 一般決闘者 @kagenora

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