第4話
空を掴んだ手をしっかりと握りしめ、幻狼族の少年は本来の姿へ身を変化させて黒煙や炎立ちのぼる美しかった首都の街を駆けた。
あの時、彼女に言われるがまま手を離さなければ。
過去を悔やんでも何にもならないと知りながらも、ウルルクは苛立ちを露わにする。
「こう煙っぽいと匂いでわからないな」
マルバノの魔術師たちに見つからないよう微かな彼女の面影を追っていると、ふと感じた気配に聳える建物へ目を凝らした。
ほんとうに僅かだが、目の前の学校らしき建物から少女の存在が確認できる。
何者かがワザとこちらへ知らせているのだろうか。
「さて、
罠だとしても、ネリは魔法学校にいる。
幻狼は長く美しい尾を靡かせ
※※※
石畳の合間をつたう真新しい血痕に一瞬冷や汗をかく。
しかしすぐに少女のモノでないことに気がついたウルルクは胸を撫で下ろした。
こんなことを彼女に知られれば、たちまち叱咤されるに違いない。犠牲者が出ているのだから。
「この建物だけ被害が少ないのは何かしらの魔法なのかな。厄介な相手じゃなきゃいいけど」
細心の注意を払い侵入できる場所を探す。
すでに息の根が途絶えているマルバノと見られる魔術師の青年から、シャツとスラックスを若干申し訳ないと思いながら脱がせると、人の形へと戻ったウルルクはそれを纏った。
「なんだろ、凄く嫌な感じだ」
ずっと、誰かに後をつけられているような。背後からというよりは……そう、全方位から監視カメラで見られているよえな気配。元より幻狼族とあって他人からの視線には敏感だが、嫌にまとわりつく。
こちらを探っているような、そんな感じだった。
ひとまず学校内部へ侵入することに決めたウルルクは、周囲に敵がいないのを確認すると真正面から突入する。
「マルバノの姿がないのは良いけど……学校なのに教職員も生徒もいないってのは変すぎるな」
勿論、緊急事態でどこかへ避難していることも考えられた。だがひとっこひとりいないというのは、あまりにもおかしい。
「ん……あれ?」
エレベーターは止まっていたので、建物中心から高く伸びる螺旋階段で少女の魔力を感じる最上階まで向かおうと歩いていた矢先。
光の粒が先程から自身の周りをウロウロしているのに気がついた。
はじめは、ホコリかなにかが照らされているのだと思っていたが、どうやら人為的なものらしい。
「ついて来いってことか。なんかありガチでつまらないなぁ」
おそらくこの先にネリはいて、そして大指導主もいるのだろう。
誘うように瞬いた粒に、ウルルクは罠を承知で導かれるまま先を急いだ。
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