第6話
突然の地響きと窓から射し込んだ閃光に、少女は生唾を飲み込んだ。
緊張感から吹き出す冷や汗は、止まる気配がない。
屋敷飛び出そうとしたネリを腕の中へおさめ、
「貴女、どうして――っ!」
「下がるんだアコ! ここは僕に任せてあの子達を!」
「
「邪魔立てするとアナタ達も容赦しないわよォ? ねえ、アコ先輩。さっさとあの糞ガキ共、渡してよ」
彼らはふたりの魔法能力を知っているためか、無理に距離を縮めることはしない。
「……どうしてこんなこと。貴女が一番、
「はぁ〜? そんなの、大昔の話でしょ」
「純血の魔法使いが減ったのは、間違いなくあの能無しの大指導主のせいだろう。それを正そうとして何が悪い」
「――だとしてもだ! 確かに、現大指導主には目に余るものがあるのは否定しない。だからと言って、人間を殺すなんて馬鹿な真似……。それにこの件は何の関係の無い者たちや、子供たちを巻き込んでまですることじゃあないだろう」
「魔力を独占しているのは奴だ。平等だと言いながら……独裁政権も良い所だろう。下等な人間共が去れば、血が混じることもなくなる。そう考えるのは至極普通だと思うがな? ――奴をあの席から降ろすには『幻狼』と『継承者』が必要不可欠。なあ、友よ。お前だって分かるだろう?」
かつての後輩に向け、杖を構える
三対二だが、相手は
対して夫婦は
「ふたりの知り合いなのか――?」
「分からないけれど、あれじゃあいくら何でも
男の一人は黒衣を
ライトは
滞空している間に、次々と攻撃魔法を男たちへ放つ。樹枝状に稲妻が落ちていく。
一定間隔を保ち陣形を取っていた彼らは攻撃を避けるため散り散りになり、態勢が崩れた。その隙を突き、姿勢を整えたアコが間髪を入れず
業火に焼かれ、奇声を上げながら男が燃えていくが、仲間としての意識は低いのだろう。消し炭になっていく一人をそのままに、残ったふたりは片膝を着いたが、黒衣を焦がすことなく炎から逃れた。
彼らの戦闘能力に鳥肌を立てる少女達は、目の前で起こった出来事に唖然とする。
魔力を失う前のネリでさえ、シェファード夫婦には到底適わなかっただろう。自分たちが
脅威的な魔法を扱う魔術師集団『マルバノ』を相手に、人間である彼らがここまで対等に……いや、寧ろ形勢の有利な状況まで持って行っている。
万が一、なにかあったらなどと思ったのは
「ネリ、おじさんの背中に何か着いてない?」
「……え?」
少年に言われ、玄関の隙間から目を細めるようにライトを見た。
確かに何かが背中に描かれているのを目視した少女は、彼の腕を掴む指先が白くなるほど力を込める。
か細いネリの握力では、痛みを感じることはない。
けれど、普段あまり見ることのない彼女の
「ここに居たらマズいかもしれない、
「駄目……駄目よ、あんなの」
少年の胸に頭を埋めるようにして、ネリは大きな瞳に溜めた雫をこぼす。
「ねぇ、ネリ。あれってもしかして
複雑に描かれたそれは、禁忌とされた魔法陣。
時限式のそれは残酷過ぎるもの故、魔法書からも消された魔法だ。
少女は昔、魔法図書館の立ち入り禁止区域に、こっそり侵入した事がある。
一般人が見ることを禁じている書物が陳列された、天井まで続く本棚。魔法を学ぶということに関して尋常ではない好奇心を持つ幼きネリは、その一角にある物々しい禁忌魔法書を手に取った。それは魔法陣を記載した古書で、所々黒塗りが目立つ。余程、危険な魔法が載っているのだろう。
ごくり、と興奮から出た唾を飲み込み、少女はページをめくり続ける。
『魔法陣一覧』の中で、最も黒く塗り潰された項目に目を奪われたネリは、黒塗りされた部分を魔法で復元させる。その時は勿論、こっぴどく叱られたが、記憶能力の高い少女は本に描かれた魔法陣を事細かに憶えていた。
下級魔法を応用した魔法として記述されたそれ。
液体を
しかし、生命への侵害だと反発があり撤廃され、危険だと判断した大指導主により永遠に使用を禁じられたのである。
――だが、どうだろう。
目にした先に描かれたそれは、あの日見た
「――アコッ! よせ、よすんだっ!!」
ライトの叫びがこだまする。
「アハハハハハッ、アコ先輩♡ 可哀想だから、先輩も一緒にお死になさいな♡」
艷冶な魔女は、飾り立てた杖を懐へ入ってきたアコの喉元に突き立てる。
「――
一際光を放つと、
生まれは人間だが、一時は名を馳せた
やられてばかりではいられない。
アコは持てる力全てを出し切るつもりで『
「――あとは、君だけだね」
苦虫を噛み潰したように残ったマルバノは
いつの間にか、戦闘中の彼らと屋敷との距離は詰まっていて。玄関の隙間から、覗き込む少女とマルバノの視線が絡む。
苦渋に顔を歪めていた男は勝機ありと、口角を上げた。
「
ライトの呼びかけに、少年は瞬時に
その姿のまま、少女の襟元を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます