モノクロの世界に君はまた
初見 皐
モノクロの世界に君はまた
「きつねとたぬき、どっちがいい?」
空気はだんだんと肌寒さを増して、大学も冬休みに入った頃。
「赤い方〜!」
これはそんな穏やかな日の、何気ない一場面だ。
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「流石にこたつ肩まで入ったら暑いでしょ、この時期」
暖かいこたつから立ち上がりながらそう言うのは僕、
「キミも隣に来るかい?」
対照的に肩までかけたこたつ布団を持ち上げて、変に気取ったような声を出すのが
そんな彼女を、へいへい、と軽くあしらって台所へ向かう。
「もう結構遅いよ?夕食作る気力もないし、カップ麺でも食べよ。そして食べ終わったらそろそろ帰れ?」
カップ麺の在庫を思い出しながら、台所の棚を開ける。
「きつねうどんとたぬきそば、どっちがいい?」
奥にあるな……、と棚の中をごそごそ漁る。
夏紀はこたつから出ないまま、むむむ……と何か考えている様子だ。
「今帰ったら外寒いし、めんどくさい……」
僕の話聞いてないな、コレ。
「今日、ここに泊まるっていうのは——」
「却下」
「えぇ〜」
そうこうしている間に、積み上がった食品類の奥からカップ麺が発掘される。
手を伸ばそうとして——ピタ、と動きを止めた。
「——それできつねとたぬき、どっちがいい?」
「赤い方〜!」
——やっぱり。
「……赤ってどっちだっけ」
「えと……見たらわかる!」
彼女はこういったあたり、かなり適当だ。ど忘れすれば、さっさと匙を投げる。
——そろそろ、言ったほうがいいだろうか。
——僕は、
彼女と知り合って1年と数ヶ月。親しくなったのは半年ほど前か。
——僕はまだ、この
僕の世界は、生まれた時からモノクロだった。それが普通でないと知ったのは、5、6歳の頃だっただろうか。
それからしばらくは、自分から見える世界が知りもしない”セピア色”に色褪せたような気がしていたのを覚えている。
毎日必死になって図鑑をめくって、色という色を全て目に焼き付けようとして、それでも灰色しか見えなくて。
そんなどうしようもない感情も、今ではすっかり落ち着いた。なにせ生まれつきなものだから、特別不便だという実感があるわけでもない。
——ただ少し、嫌気がさすのはこういう時。
このことを打ち明けたくらいで、夏紀に愛想を尽かされるなどとは露ほどにも思ってはいない。
ただ、面倒なのだろう。
打ち明けることそれ自体が。気を遣われることが。……もしかしたら、憐れまれることが。
そうして隠し事を抱えてこれまで生きてきたのだ。そうそう打ち明けられるものでもない。
「はーやーく!はーやーく!」
「はいはい」
急かされて、両手に掴んだきつねうどんとたぬきそばを夏紀に差し出す。
「どっち?」
「こっち!」
——ただぼんやりと思うのだ。彼女にならいつか、気負うことなくすんなりと打ち明けられる、そんな時が来るのではないかと。
「お湯沸かすよー」
「包装開けとくね」
「赤いきつねと緑のたぬき!コレ重要。テストに出るよ」
「夏紀も忘れてたじゃん……」
「赤と……緑」
パッケージの色を見比べてみる。違いはやっぱりわからない。
でもなんとなく。この2色は好きになれそうな気がした。
モノクロの世界に君はまた 初見 皐 @phoenixhushityo
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