地の獄【二】


「この地下牢獄は、魔術教会総本部の最下層『禁者の間』。ここをひたすら上にドカンと行った果てに最上層『鳳凰の間』がある。今そこに殲滅部隊の隊長が集まってんだが……何故かわかるか?」


「い、いえ」


「エレンの『終審裁判』をやるためだ」


「終審裁判?」


 普通の魔術師にとってこれは、泣いて許しを請うほどの絶望的な宣告だが……。

 魔術的教養に欠けるエレンには、あまりピンと来なかった。


「終審裁判は、特一級犯罪者を裁く『裏の最高裁判』だ。人道的観点から、裁判という形を取っちゃいるが……。実際のところは、ただの死刑宣告だな。歴史上、これに掛けられた魔術師は、ただ一人の例外もなく『極刑きょっけい永劫宮えいごうぐう秘滅処分ひめつしょぶん』を食らっている。仰々しい罪名ざいめいに負けず、中身も相当にえげつねぇらしいぞ? 聞いた話じゃ、『死んだ方がマシ』って思うような生き地獄が延々と続くそうだ」


「……っ」


「まっ、いろいろ長く話しちまったが……。結局のところ、俺が聞きてぇのはこれ・・だけだ」


 バンは真剣な表情で、『本題』を口にする。


「エレン――お前、あのとき・・・・なんで・・・逃げ・・なかった・・・・?」


「……どういう意味ですか……?」


「史上最悪の魔眼は、魔王の固有魔術『魔道』を再現できる。あの絶対的な力を使えば、自分一人逃げるぐらい、造作もなかったはずだ。それなのに、何故グリオラ・ゲーテスを討った? その眼、今までずっと隠してきたんだろ? あんな公衆の面前でさらせば、どういう結果を生み、どういう扱いを受けるか、きちんと理解していたはずだ。――もう一度、聞く。お前、あのときなんで逃げなかった?」


「大切な人達を守るためです」


 考える間もなく、即答。


「……なるほど……。友達だちを守るため、こうなることを承知で魔眼を使ったってか……」


 バンの脳裏に当時の記憶が浮かび上がる。


「はぁはぁ……っ。どうしてもエレンを連れてくって言うのなら……この俺を殺してからにしやがれ……ッ」


 何度叩き打たれても、しつこく食らい付く、呪蛇じゅじゃを宿した魔術師。


「エレンは普通の魔眼使いじゃありません。彼は史上最悪の魔眼を完璧に制御できています! 研究価値・戦術的意義・魔術的希少性、どれをとっても申し分なく、危険性はほとんど皆無です! だからどうか、終審裁判だけは、回避してもらえないでしょうか!? どうか、どうかお願いします……っ」


 あらゆる理由を並べ立て、必死に頭を下げる聖眼使い。


「バン……頼、むので、ある……っ。エレン、を……守って、くれ……」


 瀕死の重傷を負いながら、必死に懇願こんがんする英雄。


 三人の『漢』がほとばしらせた熱い想い。


 そして何より、この眼でじかに見た、エレンの人間性。 


(……もはや疑いの余地はねぇな)


 自分の中で納得したバンは、ニッと会心の笑みを浮かべる。


「エレン……てめぇ、なよっとした顔の割には、中々いい根性が入ってんじゃねぇか! 気に入ったぜ!」


「こ、根性……?」


「後のことは全部、この俺に任せとけ! 最高に気合の入った演説で、お前を無罪にしてきてやる! 大船に乗ったつもりで待ってろや!」


 バンはそう言って、意気揚々いきようよう天鳳てんおうへ駆け出すのだった。


―――――――――――――――――――

みなさまの応援のおかげで、本作の『書籍化』&『コミカライズ』が決定しました!

詳細はまた後日、発表させていただきます!

エレン・ゼノ・アリア・ヘルメス・ダール、みんなに絵がつくと思うと、なんだか今からドキドキしますね……! しかもそれが、漫画になって動き回るだなんて……これはもうヤバいです!(語彙の消失)


今後も毎週2回更新でやっていこうと思うので、どうか引き続き応援よろしくお願いします!(次の『終審裁判』が長いので、今回はちょっと短め! 次回をお楽しみに……!)


また、先日はじめたばかりの新作も大好評連載中!

こちらもめちゃくちゃ評判がよく、気合を入れて毎日更新中なので、もしよかったら読んでみてください!

↓↓↓


タイトル:白雪姫は甘えたい~『天才を演じる幼なじみ』を陰から支えるラブコメ~あるいは『劣等生を演じる彼』を必死に追いかける青春物語~

URL:https://kakuyomu.jp/works/16816927859217327988

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る