地の獄【一】


本日より『魔眼無双』第2章の執筆&投稿を開始します。

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 魔術教会の総本部、その最深部にあるごく禁者きんじゃ』。

 エレンはそこでゆっくりと意識を取り戻していく。


「う、うぅん……っ」


 明滅する視界、なまりのように重い頭、湿しめった岩の独特なにおい、背中から伝わる固く冷たい感触。

 自分は今、仰向けに寝ているのだと理解した。


「……ここは、どこだ……?」


 上体を起こした直後、視界一面に飛び込んできたのは――漆黒。

 果ての見えない、くら陰鬱いんうつとした虚無の空間。


(……結界?)


 よくよく目を凝らせば、自身を囲うようにして、立方体の封印術式が張られていた。


(いったい何が……?)


 不可解極まりない現状に不信感と焦燥感を覚えた彼は、いまだボーッとする頭を捻って記憶の川を辿っていく。


(確か……そうだ。大魔聖祭の話があって、みんなで強化合宿に行って、千年樹林で魔獣狩りをして、それから…………駄目だ、まったく思い出せない)


 エレンは小さくため息をつき、キョロキョロと周囲を見回す。


(……よくわからないけど、ここ・・はなんだか不気味な感じがする……。どこか別の場所へ移動しよう)


 そうして彼が両足に力を込めたところで、ようやく自分の状態・・・・・に気付いた。


「……なんだ、これ?」


 妙な布で両手両足を縛られており、さらに頭から箱のようなものをかぶせられているのだ。 


 聖浄布せいじょうふで四肢を拘束し、禁鍵縛視きんじょうばくしで両の瞳を封印――魔術教会が『特一級犯罪者』を拘束する際の手法である。


「……邪魔だな」


 エレンが僅かな不快感をにじませた次の瞬間――禁鍵縛視きんじょうばくしはバラバラに崩れ、四肢を縛る聖浄布せいじょうふも普通の布切れのようにほどけてしまった。


(なんだこれ……子どもの悪戯いたずらか?)


 最上級の封印魔具を破壊し、体の自由を取り戻したエレンが小首を傾げていると――上層の方から、男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「だーかーらー! 何度も言ってんだろうが! 俺はこの件・・・の関係者だっつの!」


「それは承知しております。ですが、『禁者の間』へ入るには、特別な許可証が必要でして……っ」


「うっせぇ、馬鹿野郎! この胸に燃ゆる『ド根性』が見えねぇのか!? これ以上の許可証はねぇだろうが!」


 直後、扉を粉砕する荒々しい音が鳴り、「おじゃま!」という明るい声が暗闇に轟いた。


「あぁもう、なんて人だ……」


「やめとけやめとけ。あの……あの方は『理屈』が通じるタイプじゃない。見て見ぬフリしてやり過ごすのが最善ベストなんだよ」


 新人と古株の看守が対照的な反応を示す中、ガッガッガッと階段を慌ただしく駆け下りる音が響く。


(……誰か、来る……?)


 エレンが警戒しながら、しばらくその場で待機していると――見るからに元気溌溂はつらつとした男が現れた。


「――よぅ、お前がのエレンだな!」


「そうですが、あなたは……?」


「俺は魔術教会所属のA級魔術師、殲滅部隊三番隊隊長、バン・グリオール! 世界一根性の入った『漢の中の漢』だ! よろしくな!」


 バン・グリオール、二十二歳。

 杏子あんず色のくせっを掻き上げた、アップバングのヘア。身長は175センチ。大きくてキリッとした瞳と豪快な笑顔が特徴的な『漢』。黒い学生服を派手に改造した、独特な衣装を身に纏っている。


「せ、殲滅部隊の隊長さんが、どうしてここに……? というか、そもそもここはどこなんですか?」


「あ゛ー、こりゃ記憶の混濁……魔眼の副作用か。まぁ難しいことはどうでもいいや。サクッと本題へ入る前に、エレンの置かれている現状をズバッと説明してやるよ」


 バンはそう言って、どっかりとその場に座り込んだ。


「で、どこまで覚えてんだ?」


「記憶にある中で一番新しいものは……王立第三魔術学園のみんなで千年樹林へ行き、魔獣狩りをしていたところです」


「なるほどなるほど、戦闘の記憶が丸っと飛んでるわけか。まっ、そうだろうな」


 彼は納得したように頷いた後、要点をまんで説明していく。


「エレンは魔獣狩りの最中、仮面の魔人グリオラ・ゲーテスと遭遇。魔眼の力を解放し、これを殲滅した。同時刻、千年樹林で超強力な魔力反応を感知した俺ら三番隊は、すぐさま現場へ急行。王立第三魔術学園の生徒と瀕死の重傷を負ったダール・オーガストを保護し――途轍もない大破壊の中心で、意識を失ったお前を発見した」


「仮面……魔人……グリオラ……ッ」


 エレンの脳裏に当時の記憶が蘇っていく。


「いやしかし、あんときゃさすがに驚いたぜ? まさかあの・・『史上最悪の魔眼』が現存して、しかもそれが安定状態にあるなんてな……。こりゃ相当に根性の入ったデカい案件だ」


 バンは両腕を大きく広げ、さらに話を続けた。


「ブツがブツだけに、本来なら『即処分』すべきなんだが……。殲滅部隊の英雄・・ダール・オーガストが、それに待ったを掛けてな。あのおっさんは、紛れもなく『漢』だ。そして当然この俺は、漢の頼みを聞けねぇような根性なしじゃねぇ。頭の固い上層部はぴーこらぴーこら騒いでいたが、そんなもんは全部無視して、エレンをこの地下牢に『保管』した。それが今、この現状だ」


「ダール先生は、クラスのみんなは無事なんですか!?」


「心配無用。三番隊うちには根性の入った回復魔術師がいるからな。当然、死者はゼロだ」


「よ、よかった……」


 エレンがホッと安堵の息をつくと同時、バンはバシンと両手を打ち鳴らした。


「これが過去の話、そんでこっからが未来さきの話。――お前の・・・生死に・・・関わる・・・大事な話だ・・・・・。心して聴いてくれや」


 彼はドスの利いた声を発し、真剣な瞳を真っ直ぐにぶつけるのだった。


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【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】


なんと本日、『超自信作のラブコメの新連載』を始めました!


タイトル:白雪姫は甘えたい~『天才を演じる幼なじみ』を陰から支えるラブコメ~あるいは『劣等生を演じる彼』を必死に追いかける青春物語~

URL:https://kakuyomu.jp/works/16816927859217327988


絶対に損はさせませんので、どうかぜひ第1話だけでも読んでみてください!

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