背負ったもの ~全完結~

 警察署の玄関ロビーに、両親が立って待ってるいるのが見えた。最近、無茶ばかりしていた。親に内緒だったこともたくさんある。きっと警察からもその辺の説明があっただろう…、合わせる顔がなかった……。

 しかし父も母も、何を問いただすこともなく


「体、大丈夫か?」


 と温かい言葉で俺を迎い入れた。また目頭が熱くなる。


「…ごめん…なさい…、…すいませんでした…」


 謝罪の言葉しか出てこない。下を向いていると、親父が肩に手を回し体を揺らす。俺の目からは、また涙があふれてきた……。


 家に帰ったらいろいろ話さなくてはならない。自分の口で、きちんと説明しようと思った。


―――


 翌日から学校に行きはじめた。警察沙汰けいさつざたで一週間以上も登校していない。ぎこちない感じで電車に乗る。


(この感じ、一体何回目なんだろう?)


 思えば高校に入ってから、こんなことの連続だ。今回は容疑者として事情聴取を受けたのだから、クラスメイトや学校側の反応が心配になった。

 教室に入るとみんなが一斉にこちらを見た。新之介と後藤が俺に駆け寄ってくる。新之介が興奮した声で言う。


「唯人ー、大丈夫だったか?」


「あっあぁ、もう大丈夫だ。」


 後藤はすでに涙ぐんでいた。近頃は彼女の泣き顔しか見ていない気がする。後藤が顔をゆがめながら言う。


「よかったー、もー、心配してたんだよ」


「あはは、ありがと。……新之介、後藤、あの時はありがとう。二人のおかげ死なずに済んだよ」


 二人は首を横に振り‶そんなことないよ〟という素振そぶりを見せた。後藤がまじめな顔で言う。


「…京香先輩、意識が戻って良かったね。今度お見舞い行かなきゃね」


 俺はうんうんとうなずいた。



 教室に浅妻先生が顔を出す。


「あっ、葦原あしはら君、ちょっと来てくれる」


 俺は二人に別れを告げ、教室を後にする。てっきり職員室に行くのかと思ったが、校長室の応接間で、数人の教師に事件について事情を聴かれた。

 その説明は、授業そっちのけで昼休みまで続き、事と次第によっては、俺は停学になるそうだ。


 昼休みになり、やっと解放された俺は、新之介、後藤と共に昼食をとる。会話は自然と‶狭間はざま〟の話題となった。


「それにしても新之介の剣捌けんさばきはすごかったなぁ、やっぱり剣道の経験とかあるの?」


「まあ、少しはあるよ、中2で止めたけどね。紗希さきも剣道やってたんだぜ」


「えっ!後藤も…」


「何よ失礼ね。あの時は取り乱してただけよ。本気を出せば私が一番強いわよ」


「フッ、どうだか…」


 新之介は鼻で笑いながら続ける。


「ああ、そういえばさ。熊谷先輩たちも事情を聴きたがってたけど……放課後の部活どうする?」


「そう…だね。バスケ部行くよ。久しぶりに体動かさないといけないしさ」


 新之介と後藤は顔を見合わせた。


「何?なんかあるの?」


「いや、部活に行ったら話すよ」



 放課後になり、三人で体育館に行く。


 俺が復帰することは、新之介からSNSで連絡が行っていた。3年生を始め、部員は全員揃っている。練習もそこそこに、俺は事件や京香さんについて、余計なことをはぶきながら丁寧に事情を説明した。

 みんなは真剣に俺の話を聞いている。説明し終わると彼らは天井を仰ぎ見たり、うなだれたりした。女子部員は涙を浮かべている。一様いちように若月先輩への理解はあるようだった。


「若月も大変だったんだな。俺たちが相談できるような人間なら少しは違ってたのかな?」とみんなが口々に言う。


「そんなことありませんよ、仕方なかったと思います」と俺は説明を付け加えた。


 話がひと段落すると、熊谷先輩が言いにくそうに切り出した。


「実はさ、バスケ部…、廃部なるみたいなんだ。部員から殺人犯が出たってことで…。若月がそのこと知ったらさ、また自分のせいだって思うかもしれないだろ。だから、若月と会う機会が一番高い唯人に言っておく。『うちら、全く、何とも思ってないから、道端みちばたとかスーパーとかで会ったらさ、いつでも声かけてくれって。また会えるの楽しみにしてる』ってさ」


「…はい…、機会があれば、必ず伝えます。」と返事をする。


 俺はこの、決して強くはない、1回戦負けのバスケ部に所属していたことをほこりに思う…。そして、それから一週間もたたないうちに、バスケ部は廃部となった…。


―――


 今日で一学期の授業が終わる。明日は終業式だ。

 俺は停学にならずに済んだ。一時は‶退学〟という話も出たそうだが、浅妻先生や一部の良識りょうしきある先生が『いくら何でもそれはひどい』と反対してくれたそうだ。


 しかし、復帰して二週間がち、新之介と後藤以外のクラスメイトや、学校全体の反応が、何と無くよそよそしく感じらてきた。噂が先行し、俺のことを


【実は殺人の共犯ではないか】


 との、面白ろおかしいデマが流れているようだ。それに霊感体質だというのもばれたみたいで、京香さんの


【かかわったら不幸が起きる。目をつけられたら呪われる】


 を受け継いだらしい。どちらもあながちじゃない。


 俺がそうしようと思えば、それは簡単に出来るだろう。危険人物なのは正解なのかもしれない。‶京香さんもこんな孤独を味わってたのかな〟と、それはそれで嬉しくもあり、前向きにとらえることにした。


 下校中、新之介と別れて家に着くまでの道中、ふと気になったことがあったので大六を呼んでみた。いつも通り、フワッと俺の歩く横に現われる。

 警察の取り調べ中、出てきてくれなかったことについては、取り調べから解放された夜に既に話を聞いていた。大六 いわく、


「俺はお前の使い魔じゃないし、お前が生きるための便利ツールじゃない。お前は今、人間として生きている。俺は人として生まれ落ちた不自由な部分を邪魔しない。基本お前を助けるのは、人のことわりを外れたときだけだ」


 とのことだった。確かに、あの時いろんな情報を大六から教えてもらってたら、取り調べの過酷かこくさを知ることはできなかった。どこか余裕が出来ていたと思う。

 そういう、世の中のどうしようもない理不尽を知ら無い人生は、もう人生ではないということか…。大六の言ってることは、きっと正しいのだと思う。


 姿を現して一緒に歩いている大六に俺はたずねた。


「そういえばさ、あの城跡にいた、凄い数の幽霊達はどこに行ったんんだろうな?みんなちりじりになったのかな?どこかで悪さしてなきゃいいけど…」


「ん?あぁ、言ってなかったか?いるぞ、ほら」


 大六が後ろを見て指さした。俺は〝まさか〟と思いながら、そーっと振り返る。


 俺の背後には、先が見えないくらいの亡者がひしめいていた。先頭にはあのお葉花魁と殿様の霊もいる。俺は息をのんだ。大六は言う。


「仕方ないだろ、あのままにしておけないんだから。彼女の分もお前が背負しょったってことだよ。それは同時に彼女の力も、一時的に全てお前に注がれているということだ。その方が、あの子にとっては生きやすいからな……」


「!!……」


 俺は目を見開き、口を半開きにさせながら言葉が出ない。


「だ、大丈夫だ、心配するな。お前と俺は、既に神の加護を受けているんだぞ。今回の件でそういう縁が、より深く結ばれてんだぜ。四天王、広目天の大きな加護がな」



金光の悪霊使い 第一部 完結

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