終結 ①

 間もなく救急車が到着し、救急隊員が処置を始める。警察車両も続々と到着し、白滝城公園は、けたたましいサイレンの音と赤色灯が辺りを照らしていた。


 桜井さんは俺が救急車に乗ることを、強く救急隊員に勧めてくれた。ずっと京香さんの胸部に手を当てて、無言で集中している俺を、隊員の人たちは不信がったが、救急車内では適切な処置がほどこされる。


 俺は、まだ大六と重なっている状態でいた。彼の眼を通して周りの状況が見える。


 新之介と後藤は、彼女の返り血を浴び、全身が血まみれになっていたが、怪我はしていない。「激しい疲労が見られる」と桜井刑事が進言しんげんし、二人は警察車両で病院に行くことになっている。

 それは桜井さんの配慮はいりょだった。説明が難しい…または理解されないこの状況を、同僚たちの質問攻めから守るための配慮である。


 とうの桜井刑事は現場に残り、状況の説明を、同僚や上司、県警の偉い人たちに状況説明をしている。現場には規制線が張られ、30人を超える警察官でごった返していた。

 それを尻目に、俺と京香さんを乗せた救急車、新之介、後藤を乗せた警察車両が、他の数台の車両とつらなり『白滝城跡 自然公園』を後にする。



 救急隊の輸液のおかげで、病院に着くころには京香さんの顔色が、幾分いくぶんかよくなっていた。しかし、傷口は閉じてない。一刻の猶予ゆうよもないのは変わらなかった。

 京香さんの魂は、無表情のまま自分の肉体を見ている。俺は彼女に、心の声を伝える。


(京香さん……生きてください…。俺はまた京香さんと話しがしたいです。この世に京香さんがいないのはさびしいです。……)


 ≪………≫


 彼女はこちらを見ずに、ずっとうつむいて黙っている。幽体の指を自分の顔にそっとわせ、その指が顔から離れると、何も言わないまま、吸い込まれるように、自分の肉体へと魂が収まっていく。


(……。出てきたら、俺も、後藤も、新之介も、怒りますからね……)


―――


 救急車が病院に着いた。俺は京香さんの胸部から手を放し、救急隊員が操るストレッチャーの二歩後方からそれについていく。


 病院の救急処置室に入ると、見覚えのある顔を発見する。それは一番最初に悪霊を捕獲したときお世話になった、亀山先生だった。

 亀山先生もこちらを発見し、俺を二度見する。そして京香さんに目をやって、救急隊員の説明を聞いていた。


 遅れて新之介と後藤が血まみれの恰好かっこうで部屋に入ってくる。状況をある程度把握した亀山先生は、医療スタッフに次々と指示を出しはじめた。看護師が俺たち3人を部屋の外に出そうとすると、亀山先生がそれを制止する。


「あー、彼らはここに残してください。詳しい情報が必要になるかもしれませんので。葦原あしはら君、何かあったらいつでも声をかけてくれ、僕らも最善を尽くして彼女を助けるからね」


――――


 京子さんを乗せたストレッチャーが、処置室を出て、集中治療室へと運ばれる。俺たちはその様子を見送った。あとは亀山先生や、病院の人たちにお任せするしかない。


 新之助が俺の肩をたたき、廊下に置いてあったベンチに‶ドカッ〟と腰を下ろす。俺も後藤もそれに続いてベンチに腰を下ろした。3人とも疲れきっていて言葉が出ない。そのうち俺は、また眠るように意識を失ったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る