会話と霊視⑥ 起こり始めた怪現象

「お母さんは、お父さんの捜査依頼を、3日後に警察に提出したの。警察は、特に怪しむこと無く受付けてくれたみたい。周囲の人も『あそこんちのとっつぁ(父親)、家族おいて夜逃げしたんだってや。』って噂してた。少しは『誰かに殺されたんじゃねーか』と言う人もいたと思うけど…。だけど、警察が家に捜査に来ることはなかった。


「借金に関しては、次から次に知らない借金が見つかって、合わせて3千5百万くらいになった。それでも、担保になっている土地を親戚に買ってもらうことで、家は出ていかずに済んだ。たまたま、公共施設に絡んでた土地もあったから、何とかなったみたい。


「採算の合わないキノコ工場もたたんで、お母さんは普通に働きだした。まだ8百万くらいの借金は残ってたけど、私達はやっとおだやかな生活が送れるようになったの」


「よかったですね。……でも、そしたらなんでお母さんは自殺なんてしたんでしょう? あ、すいません。実は京香さんの家に行ったとき、京香さんのお母さんが自殺をするときの様子が見えたんです。黙っていてすいませんでした」


「そうなんだ。自殺…だったんだよね?」


「…そうですね…、かなり思いつめてて、最終的に自分で決断してました。でもロープを首に巻いたあと、お母さんは躊躇ちゅうちょしてました。最後は京香さんの周りにいる幽霊の一体に、耳元で、死んで楽になるようにうながされてましたけど…、お母さんに聞こえていたかはわかりません…」


「そう…。でもそこまでは自分の意思でしてたんだよね」


「…そうですね…追い込まれたとしても、自分の意思が強かったと思います」


 私はなんだかホッとした。私の周りで巻き起こる死が、全て自分のせいで起きていないことが分かったから……。

 私は話を続けた。


「お父さんを殺してから、一週間くらいたってからかな…、その頃から家の中で変な現象が起き始めたんだよね。家鳴やなりなんかの音が頻繁ひんぱんに起こるようになったの。それに、お母さんとおばあちゃんの枕元に、お父さんが立って、恨めしそうに睨んでることもあったみたい。玄関を開ける音や、廊下をすり足で歩く音は、私もよく聞いてた。でも玄関に行くと、戸は開いていないし、廊下にも誰の姿もない。音だけ不自然に聞こえるの。

 

「そんな事が、お母さんやおばあちゃんを追い詰めた原因の一つだと思う。段々とおかしくなっていった……。


「私も、心臓がキューッとするような怖さは感じてたけど、お父さんを殺したことに、全然、後悔は無くって、逆に自分が殺されて当然の馬鹿だったから、私はそうせざる終えなかっただけだし、おかど違いも大概たいがいにしてほしいって思ってた。お父さんが出てきたら、とにかく言い返してやろうと、いろいろと考えていたんだけど、私の前には姿を現さないんだよね。死んでまでやり方が汚いって思ったよ。そう思わない?」


「そう思います。言いたいことがあれば、はっきり言えばいい。それを回りくどく、自分の言うことを聞きそうな人間の前だけに姿を現して、嫌がらせしてるわけですから、生きてる時と何も変わらない。どうしようもない迷惑な存在だと思います。」


「……唯人君ってやっぱり変わってるね……」


「そうですか?でもそういうことですよね。ただ怖がらせてるだけなんて、性根が腐ってます、いや、魂が腐ってるのかな?」


 私は唯人君の言いように、思わず笑ってしまった。

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