会話と霊視④ 殺意の目覚め

「中3になってからは、お母さんから喧嘩の加勢をよく頼まれた。『京香、お前からも言ってやってくれや』って言うから、父さんに『キノコ工場を止めて、収入の安定してるお米作りだけしたら?』って言うと、お父さんはすごい剣幕けんまくで怒り出すの。それを見たお母さんは、手の平を返して、お父さんの味方をした。私が悪者にされるの。訳が分かんなかった。結局、死んだおじいちゃんも含めてだけど、家族全体で、あの父親を甘やかしてたんだよね……。


「あれは……、11月の、もう雪が降りそうな、寒い日だった。私は受験生だったから自分の部屋で勉強をしてると、下でまた喧嘩をする声が聞こえた。そのうち〝カジャーン、ゴンゴン、パリンッ、ダン〟ってものすごい音がして、お母さんのさけび声も聞こえたの。いつもとは全然様子が違ってた。


「急いで1階に降りると、お父さんは仁王立ちで右手には包丁を持っていた。お母さんが倒れてて、左肩から血が流れてた。二人とも興奮状態で、お父さんは目が血走って、今にもお母さんに襲い掛かりそうだった。私は『お父さん!』って叫んだ。お父さんはこっちを見ずに、お母さんをずっとにらみつけたまま…。お母さんも同じで、お父さんを睨んでた。おばあちゃんは声が出せずにその場にいた…。


「家族中が固まってた。最初に動いたのはお父さん。手に持った包丁を座卓ざたくに置いて、じっと前を見てた。私たちも力が抜けて、その場にへたり込むんだ。お母さんの肩の傷は、それほど深くはなさそうだった。大惨事だいさんじにならなかったことにホッとしたわ。


「少し間があってお父さんが喋り始めた。『一生懸命やってるんだっけ、余計な事言うなてば!』……そう、お父さんには罪の意識が全くなかったみたい。一生懸命働いて、この家を大きくしているつもりでいるんだよね。

 でも、その日のお母さんは、何か決心しているようで、追及ついきゅうを止めなかった。包丁を遠ざけたあとで、私もおばあちゃんも加勢かせいした…。


「追及は、今、全部で借金がいくらあるのか?という話になったんだけど、先祖代々の土地は全て借金の担保たんぽになっていて、あの家も、大分前から抵当に入ってたみたい。やれ二千万だ、二千五百万だって、ものすごく答えが曖昧なの。つまり自分でも、借金の全容がわかってなかったのね。当然、お母さんとおばあちゃんと私は、一緒になって文句を言った。


「そしたらね、追い詰められたお父さんがこう言ったわ。『この家がとられれば、また家族みんなで頑張ればいいねっか。家族なんだから、みんなで助け合うのが当たり前だろうが! 京香も高校いかねーで働け。いい店知ってるんだてば。せげんろう』だって……。顔がニヤついてた……」


「………」


「……それが……、それが私の殺意に火が付いた理由。いつもどこかで抱いていた殺意。

『自分の子供の人生まで、この馬鹿ばかは食い物にしようとしてる。この阿保あほのせいで私の一生を棒に振りたくない。』

『私は、あの宗教家の言う通り、曲がりなりにも、このダメな両親を立ててきた。その結果、お母さんは今日殺されそうになってた。神様は何も見ていないし、これ以上、そんな戯言に付き合ってはいられない…』

そう思ったの……。

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