会話と霊視③ 喧嘩の堪えない家

「私が中学2年の冬、自分の部屋で勉強してたら、突然、台所で大きな物音と怒鳴り声がしたの。びっくりして一階に降りていくと、いつもと違って、おじいちゃんとお父さんが、つかみ合いの喧嘩してた。よくわかんないけど、200万円もする機械を、また買ってきたんだって。別に聞きたくもないのに、大声で話してるから聞こえてくるのね。

「おじいちゃんが『同じ機械が2台あるねっか。3台もいらねーろがや』って言ってた。そしたらお父さんが『掘り出しもんなんだいや。今買わねぇともう無ぇんだて。人増やして3台使えばいいねっか』だって……。

「今、この家の借金は、いったいいくらなんだろう?って、ものすごく不安になって布団の中で震えてた。同じ機械を何台も買ってくるのは、今に始まったことじゃなかったから……。

「普段あまり怒らないおじいちゃんが、この時は本気で怒鳴ってたんだよね。おじいちゃんは何でも『うんうん』と聞く人で、私にとっては、この家の中で一番頼れる人だったんだ。

「その喧嘩が午前中のことで、私は冬休みだったから、家に居たんだけど、昼ごはんになっても、おじいちゃんが戻らないから、雪の降る中を家族で探したんだ。そしたら、家の前の用水路で倒れてるのを、ばあちゃんが見つけたの。救急車で病院に運ばれて、脳梗塞だって診断が出た。意識は戻ってるんだけど呂律障害とか、麻痺が全身にあって身動きできない状態になってた。

「言葉はしゃべれないけど、声は出るんだよね『あー、うわぁー』てね。私を見て何か訴えてるみたいだったけど、よく分からなかった……。

「何故か、お父さんは、じいちゃんの看病を一生懸命にしてた。でもね、お母さんとおばあちゃんはキノコ工場の仕事があったから、朝から晩まで、その仕事から手が離せなかったの。お父さんが無駄に買ってきた機械を使って、少しでも利益を取ろうと働いている二人に向かって、お父さんは『じいちゃんが倒れたのに薄情はくじょうな奴らだ』って言うんだよ。 


【てめえがじいちゃんの血圧上げたからこんなことになってんだよっ、バーカ。お前が死ね】


と私は心の中で何度も叫んでた! ……あ、汚い言葉でごめんなさい……」


「大丈夫です。京香さんのそういうとこ、新鮮です」


 私はちょっとだけ恥ずかしくなる。


「二週間後、じいちゃんは死んじゃった。お金もないのに、お葬式は立派なものだった。檀家だったし、そのお寺と仲が良かったからね。お父さんは『うちのじいちゃんは大往生だいおうじょうでした』なんて、笑顔で喪主もしゅを務めてた。あきれてものが言えなかった。【お前がいなければ、おじいちゃんはもっと長生きできたのに】って。

「家にはカード会社の催促の電話がいっぱいかかってくるようになってきた。農協や銀行からも、だんだんお金が借りられなくなってきたみたい。そうすると今まで、いい顔をしていた人達にも、お父さんは煙たがられ始めたの。『あんたんちの親父が来ると、なかなか帰らないからこっちの仕事ができない。もう来させないでほしい。』ってさ。

「お母さんにも手を挙げることが多くなった、毎日が喧嘩だった…。尊敬したいはずの…、頼りたいはずの…、甘えたいはずの両親が、毎日喧嘩だよ…。私だって、あの宗教の人達の言うとおり、親の言うことをちゃんと聞きたかったよ…。

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