会話と霊視② 私は話したい
私は飲み物を一口飲んだ。唯人君は黙って話を聞いてくれている。
「キノコ工場を止めさせようと、おじいちゃんとおばぁちゃんが、真理教教会の人を呼んできては、お父さんを説得してた。『設備投資を止めて、ちゃんと仕事するように』って。お父さんはその教会の人とも喧嘩してた…。私は、自分の家の問題を、宗教の人達にたびたび仲介に入ってもらっている、こんな家族が情けなかった…。
「そんな喧嘩ばかりの家族を見て泣いていると、その宗教の人達はこう言うの。『お父さんはアイデアマンだからねぇ、京香ちゃんはお父さんとお母さんの言うことちゃんと聞かないとだめだよ。』って。説得力ないよね。目の前でお父さんと口喧嘩してた人たちだよ。
「私が『こんな親の言うことも聞かないとだめなの?そんなのおかしいよ。』って言うと『それでも、親が言うことは絶対に聞かないと不幸になるよ。二人とも京香ちゃんのことを思ってくれてるんだから』って逆に怒られるの、どう思う。
「それは…うまく言えないけど違う気がします。家族のため、子供なためなら、やり方を見直したりして、ちゃんと経営を軌道に乗せるような努力をするもんだと思いますけど…そうしなかったんですか?」
「しなかったねぇ、そういう〝自分を反省して直していく〟っていう人間じゃなかったなぁ。自分は正しいことを全力でやっているから、間違ってるのは周りの方だっていう、いってみれば超わがままな子供みたいな人だった。」
「それは何とも…厳しいですね。止められなかったんですか?」
「止められなかったの。例えば工場の部屋を増築したり、設備を追加するのもさ、お父さんが勝手に決めてきて、工事が始まってから、家族が知るから、止めようがなかったみたい。そんなこと、しょっちゅうあった。そのたびに、お母さんが私に『どうしようもないお父さんだ。』って愚痴をいっぱい言ってきたよ…。
「でもね、私思うの。そんな父親を抑えきれないお母さんもやっぱりおかしいって。私が『もう、離婚しちゃえばいいじゃない』っていうと『
「…そうですね…。どうにもなりませんね……情けなくなりますね……」
「私、あの家が大、大、大、大嫌いだった‼」
私がそう言って、唯人君の方をチラッと見ると、彼は目に涙を
「どうしたの?どこか苦しいの? …私の話し…その…詰まらな過ぎた?」
自分ばかりが
「いえ、違うんです…。俺、最近、変な力があるみたいで、今京香さんの話を聞きながら、京香さんの記憶がそのまま入ってきて…、その時の気持ちや情景が、頭の中でイメージできるんです。…京香さん…、辛かったと思います……」
彼の目から一筋の涙が
「俺のことは心配ないので、話しを続けてください」
私は…力が抜けていった…。
「…私の…記憶が見えてるの? ……唯人君、やっぱりすごいね。……じゃぁもう、話さなくても、全部わかっちゃうんだね……」
唯人君には、私が直接話さなくても全てが見えている。テレビで見る凄い霊能者みたいに、きっと何でもわかってるんだろうと思った。
じゃあもう、こうやって語る必要も無い。私の
しかし、彼はこう言った。
「そんなことありませんよ。霊視とか透視とか…、それでしかわからないこともあるかもしれませんけど、俺は京香さんの口から、直接〝言葉〟で聞きたいんです。僕ら人間ですから、テレパシーとかで会話してるわけじゃありませんし、生きてるからこそ〝言葉〟で伝わる気持ちってあると思います。ですから、気にしないで、どうか続けてください」
(………)
彼の言葉に、私の気力が戻ってくる。私はやっぱり話がしたいんだ。私は唯人君に私のことを伝えたい。
彼にハンカチを差し出して、「じゃあ、もう少し付き合ってね。」と言った。彼は「はい」と返事をしてくれた。
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