会話と霊視① 子供の頃

 私は話し出す。


「私が子供の頃ね、私のおじいちゃんとおばぁちゃんが、神道でも仏教でもない宗教を信じてたの。ほら、真理教。唯人君の近くにも教会とかなかった?」


「ああ、ありました。俺の家も、ばぁちゃんが行ってましたよ」


「そうなんだ、一緒だね。私、子供の頃、その人たちのことは嫌いじゃなかったんだ。うちの親は、いつも喧嘩ばかりしていたし、子供は勝手に育つと思ってたみたいだから、人間の生き方みたいなものを、教会の人たちから、いっぱい教えてもらった気がするわ。

「でもね、たった一つ納得できないことがあった…。それは『親のいうことは絶対に聞きなさい』という教え……」


「……」


「私思うの、親が…例えばアルコール中毒だった時も、絶対言うことを聞かないといけないのかって。暴力を振るうような親でも従わないといけないのかって…。

「親がどうしようもない人間だった場合でも絶対いうことを聞かなくちゃいけないと思う?」


「そんなことないと思いますよ。実際、DVを受けてる子が、死んじゃったニュースなんていっぱいありますし…。」


「そうだよね…。でも、私のお父さんはそういう人間だったんだ……」


「……」


「私の家ね、専業農家だったの。父親のワンマン経営でさ、お米ももちろん作ってたけど、その他にも、マイタケなんかを育ててた。大きなキノコ工場まで建ててさ、機械や設備にお金を投資しては、『これで間違いなく儲かる』って、よく大風呂敷おおぶろしきを広げる人だった。

「お金もないのに、人もいっぱいやとってたよ。自分は工場の仕事もしないで、いつもどこかに飛び歩いてたけどね。肝心のマイタケは、売り物として、いい値段が付くほどまでは、よく育たなかったみたい…。

「仕事をしないだけならまだいいんだけど、突然、何百万もする機械を、遊び歩いた先から買ってくるの。私の家はもともと田んぼがいっぱいあったんだけど、借金のかたに、どんどんその数が減っていった。これから宅地になりそうな、立地のいいところからね…。

「それでもお父さん、『今度こそ大丈夫、今まではあれが悪かった、これが悪かった』って、キノコ工場にお金をつぎ込んでた。設備投資っていっても、本当にその設備が必要なのかもあやしかったんだ。なんせ、自分はその工場で仕事をしないから、マイタケの生育状況が、本当のところわかってなかったんだよね。よく家族で喧嘩してた……」

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