会話
俺は大きく息を吐いて、先ずは彼女に
「
「……」
「先輩…、家に戻らなくてもいいんですか……」
「…家には…もう戻らないよ…。もう戻れない……」
彼女は遠くを見るように言った。俺は話を切り替える。
「周りにいる幽霊のこと…、見えてますよね?」
彼女はちらっと俺を見て、また前を向く。
「見えてるよ。
この状態で言われても説得力がないと思った。刃先は首元にまで迫っている。
しかし、そんなこともどうでもいい。
「先輩、話をしましょう。俺、若月先輩と話がしたいんです。今、先輩の身に何が起こってるのか…、どうしてこうなったのか……。俺しか先輩の状況が見えていなかったのに……何の力にもなれなくて……」
「そんなことないよ、いろいろ助けてくれたよ。
そう言うと、彼女はほほ笑んだ。下の名前で呼ばれたので少し驚いた。
「ありがとうございます…。ところで先輩、今どこに向かってるんですか?」
「京香でいいよ、そう呼んでほしい…」
俺は少し戸惑いながら「京香…さん」と言い直す。
「うん、それでいいよ…。どこがいいかな?変なこと言うみたいだけど、唯人君がしたいなら、わたしは〝そういうところ〟でも構わないよ。」
多分、ラブホテルのことを言ってるんだろうと思った。もちろん、そこで話しを聞くというのも有りだろうけど、状況が状況だし、それが京香さんにとって、今はいいことだとは思えない。
俺は、俺のことを思ってくれた京香さんに、丁寧に断りを入れ、とにかく邪魔が入らないところがいいと申し出た。「車の中でもいいですよ」と。
すると、後ろで座っていたお
俺たちを乗せた車は、鶴巻市の西にそびえる、標高800メートルほどの槍ヶ峯に向かう。
車は山道に入った。青々とした木々からは
平日の日中ということもあり、対向車には数台すれ違ったが、前を行く車も、追いかけてくる車もいない。
深刻な状況だということは、二人ともわかっていた。だが、俺と京香さんは、このドライブ楽しんだ。いつしか、侍の亡者達も刀をおさめ、段々と姿を消している。
「今日はお天気もいいし、涼しいね」
「そうですね、ニュースでも過ごしやすい日になるって言ってましたよ」
「部活のみんな変わりない?」
「変わりないですよ。京香さんが来ないから、チーム戦が出来なかったんですよ。」
「ごめんね、さぼり
「みんな待ってますから、ちゃんと来てください」
「あはは…」
「自分で髪、白くしたんですか?」
「違うよ、美容室でしてもらったの。でも真っ白にならなかったんだよ」
「そうなんですね、最初はびっくりしましたけど、とっても素敵です。生活指導の先生が怒りそうですけどね」
「そうだね、このまま学校に行ったら間違いなく怒られちゃうね」
―――。
普通の高校生がする話をした。楽しかった…。
現実には、もう若月先輩は学校には戻れないだろう…。今だけは…この時間だけは、そんな事を忘れて彼女と何でもない話がしたい…。
山の中腹まで来て脇道に入る。この道は、普段あまり車が通らないみたいだ。枝や草なんかが
「この道で間違いないよね」などと、談笑しながら進み、広い草原のようなところに到着する。
お
入口には『白滝城跡地 自然公園』と書かれた看板がある。草が一面に生え揃っていて、奥には大きめの
俺と京香さんは、行きに買っていた缶コーヒーとお茶を手に車を降りて、あーっと背伸びをする。すると、京香さんがカバンの中から虫よけスプレーを取り出し、俺の体全体に吹き付けてくれた。「制服がスカートの、女子の必需品なんだよ」とのことだった。
少し公園に入ったところにベンチがあり、そこに俺たちは腰掛ける…。楽しい時間はもう終わりを迎えようとしている…。京香さんは何から話そうか考えているようだ。
死霊達の姿は見えなかった。一旦姿を消しているようだ。気配は……俺のもともとの霊感では
「いないですね、見えます?」
「そうだね、いないね、呼べば来てくれると思うけど」
「いや、いいです。せっかく二人になれたし、聞かれてたにしろ、このままで……」
「そうだね……。何から話せばいいかな」
「何でも…京香さんのこと知りたいです」
「そうだね。それじゃぁ……」
そういうと彼女は、そびえたつ山々を見ながら話し始めた。
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