助けを求める声 ー帰路ー
来たときのように、先輩と呼吸を合わせ、〝せーのっ〟でお姫様抱っこをし、部屋を出た。
階段を下り、廊下を渡り、玄関に着く。
両手が
家の外に出てから先輩を下ろし、フーと深呼吸を一つする。そして結界の外に、亡霊どもがいるかどうかを確認した。
濃霧の中、かすかに夜明けの
俺は視線を戻し、黙って先輩の手を
自転車を小屋から出し、それを手で押しながら、彼女と一緒に、結界の境界線に向かった。
俺の心と体には、怒りの感情が
若月先輩が一体何をしたというのか……。
なぜお前らは、そこまで彼女に執着しているのか……。
(どうせ大した理由なんてありゃしないんだ。結界の外に出てから先輩に手を出してみろ!俺がお前らを消してやる!)
そう思いながら歩いていた。
結界に近づくにつれ、騒いでいた亡者の群れが、統率された動きを見せはじめた。
これから進もうとしている、帰り道の両端に、列を
俺はその様子を目で追いながら、若月先輩と境界線の手前に着き、立ち止まる。
若月先輩には、亡者の姿は見えていない。だが、俺が何かを感じているのを
結界の外、
道の両脇に整列していたのは、朽ち果てた
数でいえば…ゆうに300体はいるだろうか。
(なんなんだこれは?馬鹿げてる……)
目を疑う光景だった。一人の人間に
半ば
身なりの良い武士は、
〝こいつが親玉なのか?……ならちょうどいい……〟
俺はこの、訳がわからない状況に、話しをつけなければならないと思った。自転車をその場に置き、若月先輩に〝ここで待っていてください〟と目と態度で合図し、亡者が待ち構えている結界の外に、一歩、足を踏み出した。
何が起るかわからない。
現状で俺が出来ることは、大六から教えてもらった。印と真言を使った、悪霊を捕まえる
その間に切りつけられれば、簡単に勝負はついてしまう…。
大六の手助け無しでは、全く戦えないことは自覚していた。しかし、そんな理屈を考えるより先に、体が動いてしまったのだ。
理性では〝まずい〟と思っていても、一方では〝この期を逃してはいけない〟とか〝ふざけんなよ、お前ら!〟という気持ちが
ビリビリとした霊気を感じ、一旦、立ち止まる。
〝それでも……〟
俺は、殿様に近づこうと、また
すると、次の瞬間、状況が一変する。
この場を埋め尽くしていた亡者共が次々と姿を消して行くのだった。
殿様と思われる武士は、その表情を変えずに、まだこちらを見ている。俺は急ぎ足になった。
もう少しで、殿様と会話できる距離に入らうかというところだったが、その身なりの良い武士も、ゆっくりと姿を消していくのだった。
数秒後には、何一つ変わらない、いつもの道路が現れる。霧も晴れ、空も大分明るくなっていた。
俺は直ぐさま大六を呼んで確認する。
(ごめん大六、教えてくれ。若月先輩をこの結界から出しても、本当に大丈夫か?)
あいつらは、ただ消えただけだ。日が昇ってきたせいで、力を弱めたとしても、夜になれば、また元通りになるだろう。
大六は姿を見せずに答えた。
〈大丈夫だ。お守りも持たせただろ。俺を信じろ〉
(……でもさ)
〈……唯人……〉
大六は少し悲しそうな口調になって、俺の名前を呼んだ。はじめて聞くその
ここまで、大六の力や助言無しでは、まともではいられなかった。命を落としていてもおかしくは無い。
適当なところもあるけれど、彼は立派な守護者であり、一緒に悪霊と戦った戦友…友達でもある…。
(……わかった、信じるよ)
そう心の中で言い、若月先輩に声をかけた。
「先輩、行きましょう。幽霊はいなくなりました。また出てくるようなら、俺が祓ってみせますから…」
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