助けを求める声 ー紙守りー

 外はうっすら明るくなり始めていた。時計の針は朝5時を指している。


 俺も先輩も目覚めていた。十分な睡眠をとっているとはいえないけれど、鋭気えいきやしなえている。


 これからどうするかは……、何も話し合っていなかった。


 先輩のことを考えれば、結界のあるこの家にいてもらうのが一番良いのだけれど、そうもいかない……。

 いや……、やってみるべきかもしれない。


 両親に正直に彼女の現状を話し、しばらくおいてもらうように、頼み込んでみるのはどうだろう。


 いろいろ詰問きつもんされそうだが、ダメ元でしっかりと話そう。うちの親なら、昔からそういう話しが何度もあったから、きっとわかってくれる。


 先輩には、しばらく、この家にいてもらって、その間に大六と、あの家の悪霊をなんとかする方法を考えればいいのだ。


 彼女のおばあちゃんも、どこかの施設に泊まれるよう手配できれば、もう問題な無い。学校の事は二の次でいい。3日くらいあればなんとかなるだろうか?


(大六――、)


 俺が大六に、頭の中で相談しようとした矢先、若月先輩がこう言った。


「葦原君、ありがとう。私、家に戻るね」


「……でも先輩、あの家に戻ったら、また怖い目に遭うかもしれませんよ。今、方法を考えますから、少し待ってください」


 先輩は、静かに首を横に振った。


「うーうん、もう夜が明けてきたから、私帰るよ。多分大丈夫だと思う…。昨日は突然、いろんなお化けが出てきちゃったから、ちょっとびっくりしちゃったけど、よく考えれば、どれも初めての事じゃ無かったし、それに……」


 若月先輩は微笑みながら言った。


「それに葦原君と、今日は本当に楽しく過ごせたから…、何だか凄く元気出てきたし」


「………」


「大丈夫だよ。本当に」


「…ちょっと待ってくださいね」


(大六、ちょっといい?)心の中で呼びかける。


〈ああ、なんだ〉


(やっぱり見てたか?)


〈まあ見てたさ、俺はお前の守護をしてるんだからな〉


 大分だいぶ恥ずかしいが、今はそんな掛け合いをしている時間が惜しい。本題に移った。


(先輩はこう言ってるんだけど、大丈夫だと思う?)


〈さあな、でも、それも本人が決めることじゃないか?帰ると言ってるのを無理矢理引き留めることも出来ないだろ?〉


(…そうなんだけど…、じゃあさ、若月先輩が家に戻っても、悪霊に襲われない方法はないか?この家みたいに結界を張るとか)


〈そうだなぁ…、あるにはあるぜ〉


 大六は俺に、紙、ボールペン、封筒、のり、ハサミなどを用意させた。

 そして、意味が分からない梵字ぼんじの様なものを、A4用紙の4分の1程度のサイズで書かせ、その梵字部分をハサミで切り取り、4つに折る。


 次に、普通に手紙を送るサイズの封筒を、ハサミで半分に切り、底のある方に梵字を書いた紙を入れて、2回ほど折ってコンパクトにしてからスティックのりで封をする。


 すると、ちょっとした〝お守り〟のようなものが出来た。その様子を彼女は黙って見ている。


(大六、これでいい?)


上等じょうとうだ、それを彼女に持たせてやれよ、きっと守ってくれる。〉


 俺は、若月先輩に言う。


「先輩、実は俺、最近霊感が強くなって、幽霊に対して、いろいろ対処できるようになってきたんです。気休めかもしれませんが、こんなものでも、少しは先輩を守ってくれると思います。受け取ってください。」

 彼女は深くうなずきながら、その〝紙守り〟を受け取った。


「ありがとう。」と嬉しそうに言い、笑顔を見せる。


〝よしっ〟


 そろそろ両親に気づかれないように俺の家を出なければいけない。


 ぼやぼやしている場合じゃない。早くしないと母親が起きてくる。


 先輩に服を着てもらい最後にキスをする。

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