助けを求める声 ー求め合う心ー

 

――――。


「ところで先輩、何があったんですか?というか、やっぱり俺が先輩の家にお邪魔した日からも、霊現象はおさまらなかったんですね?」


 さっきまで笑顔だった彼女の顔がくもる。


「……うん、あの後も金縛りとか、いろんなことは起きてたの。うそついててごめんなさい。葦原あしはら君には迷惑かけてたし、これ以上は…と思ってたんだけど…」


「そうなんですね、わかる気がします。こういう霊的な話って、誰にでも相談できることじゃないですから…」


「そうなんだよね」


「若月先輩のおばあさんは、今大丈夫なんですか?」


「今日は施設に泊まりに行く日だったからいないの」


「じゃぁ一人だったんですね。」


「そう…」


「おばあさんがそんな状態だったら、有名な霊能者に相談に行くことなんて出来なかったんですね。すいませんでした。家庭の事情も考えないで……」


「ううん、嬉しかったよ、心配してくれて」


 そう言うと若月先輩は、俺の肩に自分の頭をかたむけた。長くつややかな髪からは、香水とは別の、さわやかな香りがただよう。

 不意ふいのことに、俺は何が起きてるのかと、彼女の方に顔を向けた。


「先輩?」


 若月先輩は、肩にあずけた頭を持ち上げ、こちらを真顔でジッと見つめる。


「………」

「………」


 座った段階で、男女の間隔かんかくとしては十分近かった。今はそれを更に縮めている。彼女の胸から腰までが、俺の体に接触していた。体温が伝わってくる。


 俺の心臓は、今までになく高鳴った。


 襟元えりもとから見える胸の谷間や、ワンピースの上からでも分かる、色白でしなやかな体のラインは、はげしく妖艶ようえんで、男子としては、今すぐにでも触れてみたい衝動しょうどうられる。


 もちろん、そんなつもりで自分の部屋に案内したわけじゃない。けれど、このシチュエーションは、彼女が〝それを望んでいるのかもしれない〟と思わせた。


 先輩は一旦、目線を外し、軽く俺の胸に顔をうずめて、そのまま、こう言うのだった。


「あたし…、葦原君としたい……」


 一瞬、桜井刑事が机に置いた、写真の男達の顔が、頭をよぎる。あの人達にも同じような言葉を掛け、身をゆだねているのだろうか?


「先輩…どうしたんですか?」


「……葦原君は、あたしとじゃイヤ?」


「イヤじゃ無いです……先輩のことは……大好きです」


「私も…葦原君のこと好きだよ…だから……いいよ…」


「…………」


無意識に…、吸い込まれるように、俺の顔は若月先輩に近づいていった。


 そして、よくわからないまま、出来るだけ優しくキスをする。 


 キスをし終わって、彼女のうれいを帯びた表情を見たとき、俺の理性のせきは、跡形も無く押し流された。


 若月先輩が羽織はおっていたカーディガンを脱がし、ワンピースのスカートから手を入れ、ブラの上から胸を鷲掴わしづかみにする。


 ブラ越しにも彼女の胸の柔らかさを感じるが、すぐに下着自体を取りたくなって、両手を背中に回し、ホックを外そうとした。


 手間取る俺の様子を、先輩はじっと待つ。やっとのことでホックが外れた。

 そして、そのブラを、きちんと脱がすこともせず、そのどこまでも柔らかい胸の感触を、自分の両手で確かめるのだった。


 不意に、自分がとんでもない事をしていて、先輩に軽蔑されているんじゃないかと目線を上げる。しかし、彼女は優しく微笑んでいるだけだった。



 俺は、男の本能のかたまりだ…。

 もう止めようが無いケダモノだ…。


 先輩の胸の柔らかさを堪能たんのうし終えると、その手は、彼女の下の方にと、向かっていった。

 ショーツの上からでも、先輩が感じているのがよくわかる。表情も若く美しい、女性のそれに変わっていく。


 部屋の明かりは、常夜灯じょうやとうに切り替えたが、テレビはつけておかなければならなかった。光がチラチラとうつり変わる空間に、若月先輩の、白く、しなやかな裸体らたいがあらわになる。〝これが俺と同じ人間なのか?〟と疑うくらい、美しい姿だった。


 彼女は俺に、迷惑が掛からないようにと、懸命に声を殺し続けてくれていたが、時折、テレビの音量以上の吐息といきれた。

 必死にこらえているのを知りながら、俺は先輩の反応を求めて、体のあちこちをまさぐった。欲望のおもむくままだった。


 二人とも、いろいろなことがあって、心身ともに疲れていたと思う。

 もう、幽霊の話しなんかどうだっていい…、ここ最近、そういったことに、振り回されっぱなしだった。 

 今はただ、お互いが気が済むまで求め合って、それでたされることに終始しゅうしした。


 全ての行為が終わり、二人で眠りに落ちた後も、小一時間もすると、どちらともなく目が覚め、何度か行為を重ねる。


 あこがれの女性が裸同然で横に寝ているのだから、欲求を止めるすべがない。彼女も「いいよ」と優しく対応してくれた。


 


 俺はあらためて、強く思う。


〝若月京香を何者からも、なんとしても守ってやりたい〟


 と。

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