警察署にて ー事情聴取ー

〝ドンッ、ガサガサ、ガッチャン〟


 あわただしく部屋の扉が開く。桜井さんと相棒の村井さんは、手にそれぞれ資料を持っていて、そのせいでドアノブが上手く回せず、ぶつかって音を出していた。


「待たせて悪いね」


 と言いながら部屋に入ってくる。更に、後ろから見知らぬスーツ姿の男性が、二人入ってきた。当然、警察官…いや刑事なのだろうと思った。


 持ってきたファイルやパソコンを整理しながら、俺の対面に桜井刑事、その左側に間隔かんかくを開けて村井刑事が座る。村井さんは記録係のようだ。

 紹介されていない見知らぬ二人の刑事が桜井さんの後方に、自分たちでパイプ椅子を開いて座った。


 桜井さんと村井さんは、ここに来るまで柔らかな物言いだったが、

『ちょっと聞きたいことがある』程度の質問ではないのが、何となく想像できた。

 桜井刑事が口笛を切る。


「まずはこれを見てほしい」


 一枚の写真を取り出した。その写真は、上半身のあざと細い線状のれがある男性の写真であった。


「これは……」


「誰だかわかる?」


「これは俺ですよね、あの時とった写真じゃないですか?」


「そう、これは葦原あしはら君の写真だ。じゃあこれはどうだろう……」


 そう言うと、もう一枚の写真を桜井刑事は机に置いた。


「これは…、俺の写真じゃないです…。けど……」


 二枚目の写真も、男性の上半身を写したものだった。何かの事件にからんだものだろう。肌の色が青ざめている。多分この人は亡くなっている……。


 その男性の体にも、全身のあざと、細い線状のれが所々にあった。俺が若月先輩の家に行って、さむらいの亡霊にめった差しにされた時の傷と、全く一緒に見えた。違う点と言えば……、この首のところにあるめられたような跡だろうか?桜井刑事が言う。


「葦原君は嘘をつくような人間ではないと思ってるよ。君が若月京香の家から、救急車で運ばれた時も、君が体験したことを正直に話してくれたと考えてる。現実的な証拠が無くても、それはそれで一つの証言だ。」


 桜井刑事は写真のファイルを〝パタン〟と閉じた。


「ここからは殺人事件の捜査になる」


「………」


「これから事件に関する質問をしていく。答えにくいこともあるかもしれないが、葦原あしはら君の証言をぜひ参考にしたいと思っている。捜査に協力してほしい」


 桜井刑事と村井刑事は頭を下げた。初めて会う後ろの刑事二人は、こちらをじっと見ているだけだ。


「分かりました。信じてもらえるかどうかわかりませんが、正直にお答えします」


 ――――。

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