警察署にて ー容疑者ー

 ――――。

 

 若月先輩の家で起きたことを、もう一度最初から説明し、自分の体にあざが出来た経緯けいいを細かく話した。

 その他、薬物関係の変わった匂いがしなかったかとか、

 俺が若月先輩にどんな気持ちを持っているかとか、

 どこまでの関係性なのかとか……。

 

 事件当日の一日の行動を、起床後から教えろだとか、

 写真の男と面識はないかだとか……。


「スマホの若月京香とのやり取りを見せてもらえるかな?」


 と言われ、隠すようなことも無かったから全てを見せ、その内容をカメラで取られた。


 完全に先輩が容疑者として取り扱われているんだと思った。そして俺も重要参考人といったところではないだろうか?


 細かく聞かれているのは、共犯の可能性を否定するための、証拠集めでもある気がした。俺と同じようなあざを持った若い男性の死体が見つかったのだから、殺人事件との、何かしらの関係性を疑われても仕方ない。


 桜井刑事から死んだ男の人の名前を教えてもらった。信条聡しんじょうさとしさんという人だったらしい。年齢23歳、水島建設の設計部門に就職。聞き込み調査と携帯履歴から、若月先輩との交際が判明という。

 その人が、石田先輩が街で見かけた、イケメンの人だったんだろうか?全く知らない人だった。でも、先輩には、やっぱり彼氏がいたんだと、ちょっとショックを受けた。

 桜井刑事が写真をもう一枚机の上に置いた。


「えっ……?」


 そこに移っていたのは、さっきとは違う若い男性だった。


「この人は見たことある?」


「いえ……」


 桜井刑事は、俺の表情を確認するようにしながら、話を続ける。


「この男性とも、若月京香は、現在も交際中だと思われる……。本当に見覚えは無い?」


「…はい…」


「ではこっちの男性は?」


 また写真が机に置かれる。今度は40歳くらいの男性だった。


「……いえ、知りません。」


 更にもう一枚。


「この人は?」


「…知りません…」


 次々に見知らぬ男性の写真が机の上に並べられていく。


「よく見てほしい、本当に葦原君と面識めんしきはないだろうか?」


「………」


 これも捜査の一環いっかんだというのは分かっている。そして、この男性たちがどういう意味の人達かも、もう想像ができていた。


 15枚の写真……、桜井さんにうながされ、見覚えがないか、しっかり確認する。やはり全く知らない人達だった。


「見覚えはありませんし、面識もありません。」


「そうか……」




 桜井刑事は、現在の若月先輩の生活状況を説明してくれた。


 3年程前から、父親は失跡しっそうし行方不明。母親は昨年自殺。一緒に住んでいるのは、父方の祖母だけで、その祖母も体が不自由な上に、だいぶ前から痴呆ちほう気味だったそうだ。


 身辺調査の結果、生活は困窮こんきゅうしているらしく、祖母の年金はそのまま介護費かいごひに消えていく。母親が自殺したことによる保険金は、受取人が失踪中の父親のため、未払いだったそうだ。


 市役所の職員が現状を知り、生活保護の支給を検討していたが、職員が自宅に訪問すると、そこまで差しせまった生活状態には見えなかったらしい。


「どのように生活を維持しているか」と質問すると、


「アルバイトをしてるから、何とかそれでやっていけます。大丈夫です。」という返事だったという。


市側は〝今のところは大丈夫だ〟という認識でいたらしい。しかし、その実態は……。

 桜井さんは言う。


「張り込みを続けているこの一ヶ月程度で、夜間はほとんど外出をしていたよ。待ち合わせ場所で車に乗せられ、行き先はホテルだったり、個人の自宅だったり。おそらくは金銭のやり取りもあるだろう。」


「………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る