良くない噂 

 高校に入学して、最初はクラスのみんながガチガチだったが、次の日からはグループができ、教室はワイワイとさわがしくなっていた。

 俺は席が近い、男子数人と話しをている。その中の同じ中学出身の奴が


「新之介んちはでかいよ。寺だからね」


 と話題をった。運が悪いことに、たまたまそこに〝幽霊なんていない派〟の人間が紛れ込んでいて、


葬式そうしきなんか意味あんの?墓とか意味あんの?たましいなんてないんじゃない?」


 と矢継やつばやに質問を投げかけた。それはもう質問ではなく、言葉攻ことばぜめのようなものだったと思う。

 場の雰囲気ふんいきが一気に悪くなった。こういうタイプは何を言っても全く聞き入れない。意見のすり合わせをする気がないのに一方的に言ってくる。


 が悪い応戦おうせんをしていた俺に、その話の輪にいた唯人が口をはさんだ。


「おまえ、魂とかないっていうけどさぁ、逆にそれ証明できんの?」


「出来るね、だって俺は幽霊見たことねぇからな、アハハハッ」


「自分が見たこと無いからって、無いってことにはならねぇだろうが?見たことあるって奴がいたらどうすんだよ」


「それは錯覚さっかくです。残念でした。なぜなら化学で証明されてません」


「今の化学がどれだけ万能なんだよ? 化学の力で出来ないこといっぱいあるだろう。もし科学が万能なんだったらさあ、病気で死ぬ人無くして見せろよ。地球温暖化止めて見せろよ。出来ないだろう…。それにさ、お前んちの家族が死んだら葬式しねぇのかよ?墓参りしねぇのかよ。そういうの自体は、魂があるのが前提ぜんていだろ?」


「葬式も墓参りもしねぇから」


「嘘つけ!」


 それを見ていた他のクラスメイトが、口喧嘩になりつつあった二人を止めた。


 バカにしてきたあいつは、誤解ごかいしたのかも知れないが、唯人は幽霊とか魂とかが『ある』とも『ない』とも言っていない。『あるかどうか分からないだろ?』と言っていたのだ。

 俺はそのかたよらない意見に賛同さんどうする。


 唯人と話すようになったのは、それがきっかけだった。あれから3か月が経つ。彼は何に対しても優しく、一緒にいて気持ちのいい人間だった。


 唯人を誘って入ったバスケ部には、ものすごく綺麗で素敵な先輩がいた。若月先輩だ。

 彼が若月先輩の家に行き、救急車で運ばれたことは、どこからか情報が伝わって、クラスでも話題になっていた。

 男女間の、性に関しての卑猥ひわいなネタ話が多かったように思う。


 しかし、学校全体でいうと、話題はもっと違うところにあったようだ。それは


『また呪われた奴が出たぞ』


 という、彼女にまつわる以前からある〝いわく〟だった。


 若月先輩と付き合ったり、ちょっかいを出したり、いじめたりすると、よくないことが起こるという子供じみたうわさ……。


 ある生徒は部活中転倒し、下半身不随かはんしんふずいになり退学したとか…、またある生徒は一家中が精神的におかしくなり、その生徒も失踪しっそう、今だに見つかっていないとか…。


(まったく…)


 交通事故や、骨折なんかの怪我けがをした人も、何人もいるとのことだった。そのうち、


『若月京香に関わると呪われる』という奇妙な噂が、まことしやかに飛び交いはじめたんだそうだ。


(魂や幽霊の存在はあるかもしれないが、そんな荒唐無稽こうとうむけいなことあるはず無い……)


 しかし、バスケ部の先輩達は、同級生から実際に聞いた話として更に教えてくれた。

 交通事故や、何かしらの怪我を負った生徒からは、自分がその瞬間、意識が無くなり、気が付いたら怪我をしているケースが多いらしい。そして、毎晩、金縛りにあい、声も聴こえ、姿も見えるという。


 現れる霊は、あまり統一感が無く、目を開けると女の幽霊がにらみつけていたとか、子どもが遊びまわる声だけ鮮明に聞こえたとか、いろいろだそうだ。


 そのうち、付き合っている男子たちも段々と疎遠そえんになり、すぐに別れるのだそうだ。かなり即効性そっこうせいが高い上に、呪いも重めのようだった。


(あり得るのだろうか…、そんなこと……)

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