忌引き開けの学校

 葬式が終わってから三日経ちました。学校は忌引きびきということで休みをもらっています。

 お母さんにも聞きましたが、お父さんは全然出てきてくれないようです。


(なんで、出てきてくれないのよ。)


 と心の中で悪態あくたいをついても、父のことを思い出すと涙が込み上げてきます。


 今日はいよいよ登校日となりました。一つも気が進みません。そんな私を母は


「いいから行ってきなさい。私も今日から仕事だし、お父さんも必ず見てるから……お互い頑張らないといけないでしょ。」


 と歯切れ悪く私を送り出しました。





 学校に着き、教室の自分の席に座ると、なつかしい感覚に包まれました。友達の圭子をはじめ、最初はよそよそしかったクラスメイトも、徐々じょじょに声を掛けてくれ始めました。圭子が


「大変だったね……」


 とそれ以上かける言葉が無い様子で、会話が途切れます。気を使っていることが分かるだけに、その様子を見せられれば、無理にでも元気を出さないと申し訳ない気持ちになりました。


「ありがとう圭子、でももう大丈夫だよ。気にしないで。」


 カラ元気で対応します。

 不思議なもので、カラ元気でも午後になった頃には本当に元気になってきました。


 休み時間、ボーッと外を眺めていると、葦原あしから君が声をかけてきました。


「後藤は今日、部活していくの?」


 われに戻って答えます。


「えっ、うん、一応行こうと思ってるよ。運動出来る用意してこなかったから、見るだけだけど……」


「そっか…、そうだよね……あのさ、」


〝キーンコーンカーンコーン〟


 葦原君は、続けて何か話そうとしたようですが、次の授業のチャイムが鳴ったので、会話を切って、


「じゃ、放課後。またね。」


 と言い、自分の席に戻っていきました。


 私は、席に戻っていく葦原君の背中を見ながら、おかしな感覚に襲われました。

 今まで忘れていましたが、お父さんの病気を最初に指摘してきしたのは、彼だったのを思い出したのです。


(葦原君ってもしかしたら、お父さんの病気のこと、わかってたんじゃ…?)

 一瞬、そんな考えが浮かびました。


(でも、なんでわかったんだろ? そんなこと、分かるわけないよね……)

 次々に、疑問が重なっていきます。


(本当に、お父さんと同じような症状の人と、相部屋になったの?)


(本当に、たまたま私に声をかけただけなの?)


(なんで、あんなに熱心に、病院に行くことを勧めたの?)


(さっき、話そうとして、止めた話しは、いったい何なの?)


 考えがぐるぐると頭を駆け廻り、そして、おぼろげな答えが、一つ、浮かび上がってきました。


(こんなこと葦原君に聞いていいのだろうか?お父さんが死んだショックで、私は正常な判断が出来なくなっているんじゃないの?……でも……でも!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る