予測された死 ②

 時計の針が午後7時半をまわったところで、母が帰ってきました。


「遅くなってごめんね。今ご飯作るからね。」


 遅くなったと言っていますが、いつもとあまり変わらない時間です。


「大丈夫だよ、私も手伝うから」と、声を掛け、一緒に夕食を作り始めた。


「今日お父さん何時ころ帰るかな?」


「9時には帰るって言ってたよ。なんか相談したい事でもあるの?」


 私は、二週間ぶりに学校に登校したクラスメイトのことを、彼の忠告も交え、母に話してみました。


「そうねー、お父さんに死なれたらお母さんも困っちゃうわねえ。」と母は言い、私も変なことを話してしまったと後悔しました。


 母と私は食事を済ませ、お風呂に入って、時間は夜9時半になっています。

 車を車庫入れする音が聞こえ、「ただいまー」と父が帰ってきました。

「おかえりなさい。ご飯今出すね」と母が言い、父は疲れた表情ではありましたが、いつも通りにご飯を食べながらビールを飲み、テレビを見ています。


 私はいよいよ父に聞いてみました。


「ねえ、お父さん、最近疲れてない?」


「そりゃ疲れてるよ、お前たちを食わせるために」


 と冗談っぽく笑いながら父は答えます。


「あのね、前に話したことがあると思うんだけど、検査入院で学校休んでるクラスメイトの話し……覚えてる?新之介の友達の……」


「あー、先生と一緒に救急車で運ばれたっていう男の子のことやろ」


 父は関西人ではないのに、たまにおどけて関西弁でしゃべります。


「そうそう、その葦原あしはら君のことや」


 わたしもつられて、関西風で相づちを打ちました。


「葦原君が入院してたとき、相部屋のおじさんが、心臓の病気だったんだって。最初は肩とか背中とかの痛みだったんだけど、それが激しくなって入院したみたい。その人、結構危なかったらしいんだけど…、お父さんはどこか痛くない?」


 父はくうを見上げて、思い当たるふしを探すそぶりを見せました。


「そうだなあ…、背中かあ、痛いっちゃあ痛いけど…、うーん、確かに最近痛いかなー。でも心配することないよ。」


「…なんか、お父さん、肩回してたりするけど、それも背中痛いからなの?」


「痛いというか、違和感がある感じがするからね。肩こりの延長線上だよ、ほんとに心配することないから。」


「……、お父さん病院に行って診てもらってきなよ。ちょっと心配になってきた」


「…心配してくれてありがとう。そうだな、時間見て、病院で診てもらうから心配するな」


「早めに行ってね」


「来週、仕事が一段落するからな、休みを取っていってみるさ。」



 それから二日後、父は職場で倒れ、そのまま〝帰らぬ人〟になりました。

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