恨み晴らし 完

 俺は首だけになったが、不思議と声は出せた。


 つながっていないが体の痛みも感じる。


 そのことが俺様の予想を確信へと変えた。


 やはり俺は不死身なのだ。


 そういうことならもう怖いものはない。


 俺は小僧に言った。


「……へっ、知るか、楽しめるときに楽しんで何が悪い、人を殺して何が悪い。どこに神様がいる。てめぇは見たことあんのかよ」


 小僧が刺すのを止め立ち上がった。俺は話を続ける。

 こういう時は恫喝どうかつした方が、子供には効果的だ。


「あと100回も俺を刺しゃあ、もうそのナイフは消えて無くなるだろう。俺があの女を刺してやったのは、そのくらいだからなあ。この結界だって、いつまでもこうしてらんないだろ、なあ、どうなんだあ!」


 さっきよりも、体の自由が効く。


「おい、だいぶ結界が弱くなってるぞ。あと少しで消えちまうんじゃねーのか?」


「………」


 小僧は黙っている。俺はまくし立てた。


「ここを出たら、おまえの家族や恋人を、一人ずつ食っていってやるよ。死んでもその魂は逃がさねー。奴隷どれいにしてやるだぜぇ。ひゃーーはははは、ひゃーーーははははは」


 小僧は背を向けて離れていく。


(やったぞ、恐ろしくなったのか?その顔を見せてみろ!)


 奴は部屋の隅へ行き、学生服姿の男と話しをしている。


(そうだあ、早く、結界を解け、あきらめろ、俺を自由にしろ!)




「……おめでとう……、合格だってさ」


 小僧がなんともいえない、あわれんだような表情で言った。


「……はあ?何のことだ。いいからここから出せ。今なら、お前や家族に手出しはしねえぞ。それで手を打て」


「あんたさあ、頭につのが生え始めてるの…わかってる?」


 俺は、小僧に切り刻まれた、ボロボロになった手を、遠隔操作えんかくそうさのように動かし、自分の頭を確かめた。ひたいいびつなところに2本、確かにがったものがあった。


「あんたはさっきまで、幽霊とか亡霊のたぐいだったんだよ。それなら、まだあの世に送ってやることもできたんだ……。最後のチャンスだったんだ。人間でいられるか、それとは違うものになるのか……。実はこの結界、まだ未完成なんだ。ちゃんとした結界を作るには、もう一体悪霊が足りていなかった。…そういう意味での合格…なんだよ……」


 小僧は顔を上げ、深呼吸してから言った。


「これからお前をしばる。お前は、自分がしたことと同じ痛みを、苦痛を、理不尽を味わっても、改心する心を持たなかった。これはお前が選んだ結果だ。後悔はもう間に合わない」


「何言ってんだ、ぶっ殺すぞ。早く俺をここから出せ」


 よだれが凄く出てくる。小僧が何を言っているのか分からない。誰でもいい、人を殺したい。女を犯したい。思考より衝動しょうどうが先行し、上手く考えることができないでいた。喰らいたい、奪いたい、凌辱りょうじょくしたい、頭の中はもうそれだけだ。


「そう言ってもらえると助かるよ。罪悪感がなくなる」


 そういうと小僧は俺の正面に立ち、手から光を出して、その光で、首と体を縛り、身動き一つできないようにした。

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