恨み晴らし ③

 小僧の拷問ごうもんは続く。


 今度は細身のナイフで、右胸を何度かつらぬかれた。片肺がしぼんだ風船のようになって、呼吸は極端にし辛くなる。


〝ゲホッ〟


 口からは大量の喀血かっけつ(肺から出る出血)が流れ続けた。


 小僧は、「ふうぅ」と短めのめ息をつく。


「俺はお前とおんなじことをしてるつもりたが……、こんなことしてて本当に楽しかったかのか?最悪な気分だよ」


 とてる。そして今度は体幹たいかん以外の、いたところを刺してきた。


「ギャー」


 細長いナイフが、体に深く刺さるたび、俺はさけび声をあげる。


〝グサッ、グサッ、グサッ〟


「ギャー……。お、おい、やめろ」


〝グサッ、グサッ、グサッ〟


「やめろ、やめてくれ」


〝グサッ、グサッ、グサッ〟


「ギャアアアアアァー、何なんだ、てめぇは!」


 小僧は、顔に付いた、返り血を拭きながら言った。


「……俺か?俺はお前がしてきたことを、あんたに返してるだけだ。まったく……、嫌な思いをしてるのはこっちの方なんだからな」


〝グササッ、グサッ、ガキンッ〟


 今度は首を切断しようと、いろんな方向から切り口を入れ始めた。だが、細長いナイフでは、上手くいかないようで手間取てまどっている。


「ふうぅー、切れないな」


 幽霊なのに、体中に痛みが走っていた。そんな中で、俺はおかしなことに気が付く。


「ま、まてぇ、なんなんだ、そのナイフ、なんで幽霊の俺を切ることができるんだ?」


 すると小僧は、一旦いったん拷問ごうもんの手を止めて、ゆっくりと答えだした。


「……このナイフ…浅妻先生があんたを恨むことで出来たナイフだ。あんたの話は先生にしておいた。今まで、流産したのは、付きまとっている悪霊のせいだってね。先生は困惑こんわくしてたよ。…でも俺のこと信じてくれたんだろうな。最後に笑いながら、冗談のように言ったんだ。『悪い霊をらしめてやってね』ってさ。そういう想いを、俺の友達は武器にすることができるらしい。知ってるか〝ブラッドソード〟。相手の攻撃をそのまま跳ね返す、ゲームのなかの武器だよ。知らないか?…まあいいや」


〝ザッ、ザッ、ザッ〟


 奴はまた拷問を再開した、


「だから、このナイフは物理的なもんじゃない。あんたの体とおんなじなんだ。そして、あんたが先生にしてきたことを、そのまま返すことができる……」


〝ザクッ、バキッ、コロン…〟


 俺の首が落ち、教室の床に転がった。


「このナイフが消えるまで…先生の気が晴れるまで、俺はあんたを刺し続ける。それがあの時、赤ちゃんを守れなかった、俺のつぐないでもある」


〝グサッ、グサッ、グサッ〟


 今度は腕を切断しようとしている。


「もう…、もういいだろ、やめてくれよ」


 俺はわざと、懇願こんがんして見せた。


「……理不尽りふじんだと思うか?でも、お前がやって来たことの方が、よっぽど理不尽だったんじゃないのか?生きてるときと死んだあと…、一体何人の人を、理由もなく殺してきたんだ?」


 小僧は偉そうなことを言って拷問を止めようとしない。


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