恨み晴らし ②


 小僧はペーパーナイフのような、細身の刃先をさわりながら歩いている。


「何する気なんだてめぇ、俺は、幽霊だぞ、死にはしねぇ、死刑だって…国家権力だって、俺を本当の意味では殺せなかったんだ。ざまあみろ!それに、俺がこっちの世界に来てから、幽霊が死んだなんて話、聞いたこともねーぞ」


「………」


 小僧は答えない。ただゆっくりと俺の周りを歩いている。




 月明りに照らされた教室は、影に入るだけで、そこは全くの暗闇になる。小僧はその闇に、入ったり出たりを何度も繰り返し、俺の視界を外れ、背後に回り込んだ。

 そして歩く音が消え、暗闇から小僧の声がする。


「果たしてそうか?〝死ぬ〟ことが無いと、本当に言い切れるか?」


「………」


 俺は息をのむ。次の瞬間、腰に痛みが走った。

 小僧の細身のナイフが背後から俺をつらぬいたのだ。小僧は、刺したナイフをぐりぐり回しながら耳元でささやく。


「…あんた…ナイフ好きだったよなあ。どうだ?自分が刺された気分は?痛いだろ?」


「てめぇ、」


 また違う場所を刺される。


「ぐうぅぅ」


 それからは早い、何度も何度も同じように、腰から腹をグサグサとつらぬかれる。

 俺がその痛みにもだえていると、今度は、縦に横にと、深く皮膚ひふを切り裂き始めた。感覚の違う痛みが走ったが、本番はここからのようだ。


 小僧は、その傷口を大きく広げ、腰から、はらわたき回す。苦痛と不安で体をピクピクと動かすが、逃げだすことができない。

 いや、待て。小僧の目的は、俺を痛めつけることじゃない。


「そ、それは……」


 小僧は腹の中から、俺が今まで食ってきた、まだ人の形もしていない、ガキ達の魂を取り出した。奴が言う。


「こんなにたくさんの命を奪ってたんだな……。楽しかったのかい?あんた?」


 小僧は、赤子の魂達を俺の腹から抜き出すと、それらを光で覆い、左手で持つ。

 次いで反対の右手でぐちゃぐちゃにされた腸を掴んで、腹腔の中から一気に引きずり出した。


 大量の血が、俺の足下を、びちょびちょに濡らす。そして、長くつながった腸が、目の前に投げ出された。気が遠くなったが、意識は失わない。


「死なないならさあ、それでもいいよ…俺は。だけどな、あんたが今まで殺してきた人の分…、その幸せに生きれるはずだった人生の長さの分…、殺された人たちの、家族や関係する人たちの苦痛の分まで全部!……、自分が遊び半分でやって来たことの、つぐないをさせてやるからな。てめえを許すか許さないかは、その後だ。」

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