死刑囚 完

 そういう俺も、死んでから魂なんてものが、本当にあるんだって驚いたけどな。


 でも考えてみりゃこの方が快適かいてきだ。何したっていいんだから。



 こんな俺にも、少しだけ罪悪感はあったんだ。〝こりゃ死んだら地獄行きかも〟ってな。でも、地獄どころかバチなんて一切あたらない。


 こういうことなら、娑婆しゃばにいるとき、もっと上手にやんちゃするんだった。〝後悔こうかい先に立たず〟ってやつか?へへっ。


 今の不便ふべんは、なんと言っても実体がないことだな。

 今の俺はどんな女にもついて行ける。でもな、俺にとって肝心なのは、ってるときや、ってるときの、あいつらの恐怖と絶望に引きつる顔だ。それが見れないのは死んでるも同じだ…、死んでるんだけどな。くくっ、あ―――ははは――。

 はぁー、こりゃ傑作けっさくだな。


 いやぁー、それでな、目を付けたのが、女の腹の中にいる赤ん坊だ。俺の力でも、赤ん坊くらいは殺せるんだぜ。あんな小さな命でも一丁前いっとまえに泣き叫ぶ。俺は、それがたまらない。生意気な女どもが絶望する姿も喜ばしい。


 ただ普通に殺しても面白く無くなって、殺した赤ん坊の魂を食うようになってから、どのくらいになるだろうな?

 食ってみると、こんなに旨いものはない。それに不思議と生の実感が湧いてくる。


 ここ最近じゃぁ、死んでから触れなかったものを、触れるようになってきた。姿を見せて怖がらせることも出来るようになった。ちょっと力を使うがな。

 多分、もう2.3匹も食えば。普通の大人だろうと殺せるくらいになるだろうよ。そんな予感がするぜ。


 そしたらよう、一番に、あの鼻に着く女教師を殺ろうと思ってる。何度の何度も、めげずにはらみやがって。流産するたびに泣きじゃくる顔がたまんなくそそるからなぁ。殺したら、俺のそばに置いて可愛がってやるんだ。

 あの世に行く前に、死んだガキたちの魂をちらつかせれば、逆にあっちから俺にいてくるだろ。どんな顔して、俺に懇願こんがんするのかなぁ。ガキの魂はぜってー渡さねーけどな。


 多分、殺しても死なねーから、毎晩楽しめそうだぜ。その次は…、どいつにするかなぁー。ハーレムだぜ、畜生。


 さて、あの女がいない深夜の教室なんて用事が無いな…。あれ、どういうことだ?体が壁にぶつかっちまうぞ?




 俺は、教室の壁や床をすり抜けようとした。しかし、いつもやってることのはずなのに、それができない。空中に浮くこともでかなかった。


 何なんだ?どうしちまったんだ?まるで、生きてる時と変わりねーじゃねーか。…仕方ねーなー。


 教室の入口の扉を手で開けようとする。しかし、接着剤でしっかりと固定したようにびくともしなかった。窓も同じだ。


 一体何が起こってるんだ?確か、あの女で、また遊んでやろうと思って教室に入ったんだ。そしたら、あん時の、生意気な小僧がいたのを見て…それから……。

 しばらく、今日起きたことを思い出してみる。不意に、


〝カラカラッ〟


 と、さっきまで微動だにしなかった教室の入口が少しだけ開く。向こう側に誰かが立っている。夜の教室というのは案外真っ暗で何も見えない。

 幽霊である俺の目にも、扉の向こうにある人影が不気味に映るだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る