死刑囚 ①

 ――中年ナイフ男は目を覚ます――


⦅……俺は…どうなったんだ…?ここは…?⦆


 周囲を見渡したすと、あたりは暗闇だった。

 この暗さ、静けさ…、もう夜中だな。ここは……あの女先生の教室だ。


 そうだ、俺は久しぶりに、あの女の様子を見に来てやったんだ。目を付けていた女たちの行動を監視して、ちょっとでも調子に乗るようなことがあったら、俺が制裁せいさいくわえねばならん。


 それが、今日はどうしたんだっけか?突然、何かに羽交はがい締めにされて、訳が分からなくなった――――。




 俺の名は、松川次雄まつかわつぐお。もうどのくらい前になるか…、俺は死刑でこの世を去った。

 いや、去ってはないな、こうしてこの世で楽しく暮らせているんだから。


 初めて人を殺したのは、26、歳いや30歳のときだったかな?まあそんなことはどうでもいい。とにかく、警察という国家権力に捕まって、『どうして殺人を犯したんだ』とか『そのときの状況を聞かせろ』だとか、いろいろとうるせーことを聞かれたっけな。

 そんなこといちいち覚えてる分けねーのにな。人生で一番めんどくさかったぜ。


 裁判になっても、ピーピーと殺した女の家族がわめいていたな。

『どんな風に殺したか』って聞かれたから、覚えてることを正直に話してやったら、

『人でなしー』とか『鬼ー!』とか、心ないことを言われちまったぜ。

『お宅のお嬢さんはとても気持ちよかったですよ』と遠回しに褒めてやったのによ。


 まーそれで学習したよ。裁判では、しおらしくして無くちゃいけないってことをさ。

 反省の言葉も暗記して宣誓までしたのに、判決は死刑になっちまった。10人は軽く殺してたからな。警察に黙ってるやつも、まだまだあるぜ、クククッ。


 もっと早く警察が捕まえないのがいけないのよ。そしたら、俺も更生できたかもしれねーのになー!あったまくるぜ!


 死刑には納得してないんだよ。あんな襲ってくださいと言ってるような、ひらひらしたスカートいてる方が悪いんだよな。まあ、ムラッときは、何着てようがやってたけどな。


 やる気の無い弁護士の態度は気に入らなかったな。それと警官と……。かなりいるなあ。後でじっくり仕返ししてやらねーとな。


 裁判では、家族や今までの生い立ちも聞かれたな。

 どうだったかな、親父は毎日酒飲んで、俺のことなぐってたし……。

 でも、自分の子供を殺しちまう親がいるんだから、それに比べたら優しい親だったんじゃねーかなー。俺が高校中退した頃に、酒の飲み過ぎでおっちんじまったけどな。


 母親の記憶は……。裁判の時、傍聴席ぼうちょうせきにいる〝あれ〟がそうだって言われたけど……よくわかんなかったな。

 何回か裁判聞きに来てたみたいだけど、その後、自殺しちまったらしい。関係ないけどな…。


 精神鑑定も受けたっけ。あーだコーだって言われたけど、俺はいたって正常だよ。育ちや考え方が違うだけだな。

 いい子ちゃんが多過ぎんだよ全く。死んだらもう何もないんだから、何したっていいだろうがよ、なあ。

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