学校復帰2日目 ー気になっていたことー

【学校復帰2日目。今日も、待ち人が来ない。】


 俺は、休み時間に後藤に話しかけた。昨日、彼女を通して見えていたものが、どうしても気になったからだ。


「後藤、昨日も言ったけどさ、改めていうよ、ありがとう。あの日、俺が倒れてから、いろいろ介抱かいほうしてくれたって新之介から聞いたよ。」


「あー別に私だけじゃないよ。倒れた葦原あしはら君を、一番そばで見てただけだから。救急車のベッドに移すの手伝ったのは、男子達だし」


「そっかぁ、みんなに迷惑かけちゃったんだなぁ」


 後藤は「そんなことないよ」といって、笑顔でかぶりを振った。


「検査、どこも悪くなかったんでしょ?」


「うん、異常なしだってさ。それに…、もう大丈夫な気がする」


「…そうなの?」


「うん、多分…」


「そう…、まあ、気を付けてよね。浅妻先生にさ、あのときのこと聞いたらね『葦原君につられて、お腹が痛くなったのかも』なんて言うんだよ。そんなことってある?」


 彼女は浅妻先生の回答が不満のようで、少しふくれっ面になった。俺はその話を深く追求されないように笑って受け流す。


「あはは、そうだね。また、そんなことにならないように気を付けるよ。……後藤、あのさ」


「ん?なに?」


 意を決して言う。


「あのさ、変なこと聞くけどさ、最近、後藤んちのお父さん、どこか体調悪いとか言ってない?」


「え?そんなことないと思うんだけど……どうして?」


「あー、いやー…」


 やはり不自然極ふしぜんきわまりない質問の仕方だった。俺は苦し紛れに取りつくろう。


「そのー…、検査入院中に、父親おやじくらいの人が入院してきたんだけどさ、『突然、心臓の具合が悪くなった』って言ってたから……、何と無く、そんなこと話してみただけなんだけど……、肩……左肩が痛いとか言わない?」


 後藤は不審ふしんがって顔を曇らせる。


「…どうだろ?肩はこるみたいだけど…、回すような仕草しぐさはよく見るかなあ……」


「あのさ、あのさ、今日帰ったらお父さんに聞いてみて、『肩痛いか』って。それで痛いとか言ってたらさ、絶対病院に行くように言ってみてよ」


「…そうなんだ…うん、ちょっと声かけてみるけど……、本当にどうしたの?」


「うん、まあ、そのおじさんも、後藤のお父さんと同じように、最初は肩が痛いって言ってたし……」


 俺は白々しい嘘をついている。後ろめたくなって、後藤からいったん目を離した。

 しかし、これだけは言った方がいいと思い、また後藤を直視する。


「早い方がいいよ。出来るだけ大きい病院がいいと思う。」


 少し語気を強めて話し続けた。


「うん。ありがとう……。聞いてみるね。」


 彼女は勢いに押された形で返事をした。

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