学校復帰1日目 ー日常ー

【学校復帰1日目。

 今日は、待ち人が来ない。】


「おう、唯人ゆいと、大丈夫か?重い病気じゃかなったか?」


 教室に入るなり、新之介が俺の体をベタベタと触り、冗談交じりに全身を観察した。それにつられて他のクラスメイトも寄って来て、教室はガヤガヤとする。


「なんも悪いとこ無かったよ、医者のお墨付おすみつきももらってきたんだから。もう病人扱いしなでくれる」


 と、俺も冗談交じりに強がってみせた。

 男子グループと、一盛り上がりし終わった後、後藤紗希が様子を見に寄っくる。


「大丈夫だった?葦原あしはら君も浅妻先生も、凄い汗かいてたから…」


「あー、ありがとな後藤。一番最初に駆け付けてくれたよね。情けない姿みせちゃって」


「情けなくなんてないよ、私、保険員だし。浅妻先生も心配してたよ。」


「先生が?…先生はその後どう、具合悪くなってない?」


「ん?元気だよ。お腹が痛むのは持病みたいなもんだって言ってたけど……、心配は心配だよね。あと、京香先輩も心配してたんだから」


「ああ、そうなんだ。今日は部活にも出ようと思ってるから。またよろしく頼むね」


「うん、じゃあねぇ」


 と、愛想よく後藤が去っていく。

 その彼女の背中に、一瞬、気になるものがチラついたが、しかし、余計な詮索はしないでおこうと言葉を飲む。




 7時間目終了の鐘が鳴り、放課後になった。久しぶりに部活に参加する。


 もうTシャツになっても、あざなんかの生々しい傷跡はどこにも無い。体調も万全だ。

 体育館に行くだけでも緊張した。 新之介は、


「おれ、相当うまくなってるから」


 と豪語ごうごしている。コートに行くと、部活のみんなが快く迎えてくれた。

 俺が休んでいた理由については『カゼが長引いて体調を崩してた』とか、『重い病気で手術をしている』とか、曖昧あいまいな情報が流れていた。


「ただの検査入院ですよ。異常なしって言われましたから」と言うと、


「体弱いんだから、無理すんなよ」といじられた。


 やっぱりそのイメージが出来上がってしまったのだ。早く払拭せねばと思う。



 若月先輩とも久しぶりに顔を合わす。考えて見れば、先輩の家から救急搬送されて以来だった。俺は他の部員には聞こえないように小声で話しかけた。


「若月先輩も、薬物検査受けました?」


 彼女は密談を楽しむように小声で答えてくれた。


「うん、したよ。何も色変わらなかったよ、当たり前だけど」


 俺もそのノリで答える。


「なんか変な疑い掛けられてますよね」


「そうだね、おかしいね」と彼女は笑った。


「おいそこ!ぺちゃくちゃしゃべってんじゃないよ。練習始めるから」


 熊谷部長が笑いながらチャチャを入れてきた。他の部員もニヤニヤしている。冷やかされたことが少し嬉しかった。


「いや、そう言うことじゃ…すいません、今行きます」


 とセンターサークルに集まっている部員のもとに、若月先輩と一緒に駆けて行った。

 若月先輩が熊谷部長に、笑顔で言う。


「もう、そういうことなんだから、邪魔しないでよー」


「ヒューヒュー」

「あはははは」

「マジかよー」


 と部員が一斉にく。そして、彼女が続ける。


「『黒の剣』の話してたんだよ。今度秋アニメでシーズン2やるみたいだから」


 とても上手なかわし方だと思った。これなら部員たちも納得。練習にも雑念が無くなる。大人なコミュニケーション能力を尊敬する。

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