第2の心霊スポット ー戦闘 完ー

 いろんなものが宙に舞って、凄い勢いで回転している。


 俺は竜巻の中心を避けて動き回った。


 大きな物理現象を起こしているせいで、竜巻事態の小回りは悪いようだ。何とか巻き込まれずに済んでいる。


 小走りで移動中、


(近づきすぎたか?)


 と思った次の瞬間、彼女は俺の方に腕を伸ばし、波動のようなものを放った。


 突然の攻撃に、それに対処することが出来ず、俺は体ごと吹っ飛ばされる。


 吹っ飛ばされた先で、竜巻に巻き込まれることは無かった。どうやら二つの力を同時に使うことは出来ないらしい。


 魔物化少女に目をやると、彼女は俺に向けて放った波動の両腕を、今度は斜め上方に向けている。その先には、廃工場の崩れ落ちそうな屋根があった。


〝あれを落とされたらヤバイ!〟


 そう思って、早々に立ち上がろうとするが、両手の印を解くことが出来ないので時間を要した。


〈唯人!起き上がるな、そのままだ!〉


 と、大六の声が頭の中で響く。

 俺はちょうど、あぐらをかいて座っている状態だった。


 俺が竜巻を避けるために、辺りを走り、転げ回っているうちに、既に金色の光は、彼女たちを飲み込もうとしていたのだ。


 大六が最後の誦経を唱える


⦅…身命を捨つるも、眷属けんぞくを愛せざれ。

 親非親しんひしんにおいて、心つねに平等に、

 和合して一となせ 。⦆


 光はどんどん小さくなっていき、さっきまであれほどの力を見せていた魔物化少女も、他の霊達と共に、姿も声も急激に小さくなり、最後は印を結んだ両手の前に、直径5センチほどの玉になった。

 そして、病院で子供たちを取り込んだときのように、静かに俺の胸の中に吸い込まれていく…。捕獲ほかくは成功した。


 大六は印を解き、俺の体から離れて、隣に座った。


「いやぁ、今回も危なかったなぁ、あんなに強いと思わなかったぜぇ」


 俺は、ほっとしたのとあきれたので、


「ほんとだよ、死ぬかと思ったよ」と言った。


「確かになぁ、死んでてもおかしくなかったかもなぁ」


 ……この守護霊は、守護している人間の命をどう思ってるんだろう。


「一時退却とかさ……、選択肢に無かったのかよ」


「んー、あそこまで粘られると思ってなかったからなぁ。あははっ」


「『あははっ』じゃないよ、もう」


 安堵感で力が抜け、空を見ながら、しばらく呆けていた。




 

 大六が言う。


「まぁでも、この辺の未成仏霊を、根こそぎ縛ってやったからな。今回はデカいよ」


 彼は充実した笑顔で、一仕事終えた喜びに浸り始めた。俺は大六に質問する。


「あのさぁ、根こそぎってことは、そんなに悪くない魂もしばったってこと?」


「そうだけど…、だいたいが、この世に彷徨さまよってるってこと自体、あんまり良いことじゃないんだぞ」


「…大六の言う通りなんだろうけど…、少し話しをしてみてさ、言うこと聞かない、悪霊的な奴だけを縛ることは出来ないのかなぁ」


 大六は即答した。


「無理だな、時間が掛かるし。それに話を聞いてやって、万が一みんな成仏しちゃったら、それこそ来た意味無くなるだろ」


〝クッ、こいつ人で無しだな〟と直感的に思う。





「よし」と大六が立ち上がる。


「じゃあな、唯人、この後は、前に話した手筈てはずどおりで行こう……な。」


 そう言うと大六は、静かに闇の中へと姿を消していくのだった。


「わかってるさ、自信はないけどね……」


 彼が居なくたった廃墟の工場跡で、俺は空を見上げてそういった。

 スマホを見ると、もう4時半になっている。辺りは夜の気配を残しつつも、少しずつ明るくなっていた。


 親に気づかれないうちに、早めに部屋へ戻らなくてはならない。この汚れた服も、気づかれないように洗濯しなければ…。 


 あぁ……、朝なのに、もうヘトヘトだ。今日は夕方まで寝て、夜から、学校の準備をしよう。10日ぶりに登校するんだから忘れ物が無いようしないと……。

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