第2の心霊スポット ー戦闘②ー

 俺は立ち上がって、妖怪化した少女と向き合った。


〝物が飛んで来るだけだ、死にはしない〟


 そう自分に言い聞かせ、気合を入れる。



 大六だいろく誦経ずきょうを再開した。俺の口からは自然と響きのある言葉が発せられる。


⦅…天のいかるをもっての故に、

 久しからずして国敗れ、非法と兵仗へいじょう

 姦詐闘訟かんさとうじょう疾疫悪病しつやくあくびょう

 その国土に集まらん。

 不善を行ずる者は、三塗さんず堕在だざいす。

 三十三天、皆、焦熱しょうねつを生ずること、

 王の悪をゆるし、捨ててしかも治せざるに…⦆


 俺は、大六が貸してくれた眼を通して、妖怪化した少女を観察する。

 彼女は、周りにいた弱い霊を取り込みはじめ、風貌が変化し始めていた。


 もともとボサボサの髪だったが、今はライオンのたてがみのように、360度に広がり、顔は真っ黒になり、くぼんだ眼が白く、にぶく輝きだした。

 すでに地縛霊とか浮遊霊とか、そういうもののレベルで無いのが想像できた。


 魔物化した少女が動きだす。



 周囲にあった、いくつかの物体が宙に浮いた。


 俺を中心として、

 0時の方向に鉄パイプが1本、

 4時の方向に割れたガラス瓶が2つ、

 9時の方向に金属製品が5つ、

 それに足元の障害物。


 どうなっているのかは知らないが、本来、肉眼でも見えてないものが、この暗闇の中で、全て手に取るようにわかった。


 4時方向のガラス瓶が、割れた方を前にして、俺に吸い寄せられるように向かってくる。成人男性が、全力で投げる硬球ボールのスピードがある。


 しかし、借りている眼のおかげで、飛んで来る軌道きどうが、その瞬間瞬間で、頭の中に描かれ、自分がよけるべき方向に自然と足が動き、紙一重で交わすことに成功した。


 間を置かずに、0時方向の鉄パイプと、9時方向の金属製品が、俺めがけて放たれる。


 鉄パイプは槍で突くかのように、一直線に飛んできた。これは避けなければならない。


 俺は、鉄パイプが向かってくるのを、右に交わす。すると横から向かってきた、金属製品は、数が多いので数個は当たることになる。


 その物体が当たるであろう、左足のふくらはぎに力を入れた。金属製品は予想通りに二カ所当たったが、準備したおかげで、大した痛みは無かった。


 物体を飛ばす攻撃は、矢継やつばやに続いたが、大六の目をかすことで、両手に印を結んだ状態でも、何とかわし続けることができた。


 器用に廃材を交わす俺を見て、魔物化少女は手を止める。彼女は、渾身こんしんの力を込めた攻撃が、大した手傷を負わせられないでいることに驚いているようだった。


 俺の口からは、その間も言葉が放たれている。

 光の大きさは廃工場の、今いる広めの区画ほどに縮まっていた。


 魔物化少女に、取り込まれていない雑魚霊達が、光の外に逃げようと必死になっている。俺はそんな小物には目もくれず、視線を彼女に向けて離さない。


 それが魔物化少女には、気に入らなかったようだ。彼女は、なりふり構わず全力で襲ってきた。




 竜巻のような現象が目の前で起き、周囲のありとあらゆるものが、それに巻き込まれている。もう、何をどう避けるというレベルではなかった。


(幽霊ってこんな大きな物理現象が起こせるものなのか?……)


 と俺は驚愕きょうがくする。

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