第2の心霊スポット ー潜入ー

 心電図は、3日間付けただけで終了となった。


 両親が呼び出され、診断結果が伝えられる。結果は、『心身ともに異状なし』ということだった。

 よく意識を失うことに関しては、一過性いっかせいの意識消失症との診断で、「しばらく様子を見ましょう」と亀山先生が両親に話してくれた。これでやっと退院できる。


 日曜日は、事務の手続きが出来ないということで、土曜日である、今日のうちに退院となった。

 夕方、家に戻ると、自分の部屋がもの凄く懐かしく感じる。『ふーっ』と一息つき、今夜行く悪霊狩りのために、早めに横になった。




 入院中、大六とこんな話をした。


「次の悪霊を捕まえるときにはさあ、この子達にも手伝ってもらえないかなあ?」


 無邪気に病室をけまわる彼らを見ながら、俺はそう言った。

 子供らには、役目を果たしてくれさえすれば、ある程度の自由は許可していたのだった。


「どうかな…。こいつらは羂索けんさくっていうあみで捕まえてるんだが…。力の強い悪霊が相手なら、そのしばりを破って、子供らを持っていかれるかもしれないなあ…。もしくは、こいつらが『悪霊とつるむ方が面白そうだ』と思って、網の中と外から強調して、羂索けんさくを破ろうとしたら、それでも突破される可能性はある。お前の力はまだ未発達で不安定なんだ。あまり得策とは言えないな」


 〝羂索けんさく〟と言われて、子供らを見たとき、彼らの体を網目あみめの様な金のいとがまとわりついてるのが見えた。多分それが、この子らを従わせている縛りのかなめなのだ。これが破られれば悪霊たちは自由の身という訳か……。善悪が分からないこの子らを逃がして、また殺人鬼に戻ったら、この子達にとってもよくないことだ。


「わかった。そういうことなら、二人だけで捕まえに行こう」


 大六とは、そういう話になっていた。




 時計を見ると、午前2時を回っている。俺と大六は自転車で目的地に向かっていた。

 月明りも雲に閉ざされ、辺りは闇が濃い。国道から少し外れて砂利じゃり道に入っていく。上り坂が急になって来た。これ以上はぐのがキツイ。自転車を路肩に止め、スマホのライトをつける。

 懐中電灯かいちゅうでんとうを持ってくるべきだったが、熟睡しているところを大六に起こされ、さらにいそがされたので、持ってくるのを忘れてしまったのだ。


 歩いてしばらく進むと、鉄骨てっこつ造りの、荒れた廃工場が目の前に現れた。屋根が去年の大雪に耐えきれずつぶれている。そのせいで外観がいかんゆがみ、くずれ落ちそうなところが多々あった。

 この辺では大きな建物も少なく、昼間であればわりと目立つ。


 ここがどういうところかと言うと、いわゆる、この地域を代表する心霊スポットであった。工場の外壁が白いことから『ホワイトプラント』ともいわれている。



 大六がソワソワしながら、満面の笑みで言う。


「ここだよここ。いいのがいたんだよ。前から目をつけてたんだよなぁ」


「『前から』っていつからだよ、初めて連れてくるだろ。こんな怖いところ…」


 そう俺が言い返すと、彼は〝ニヤリ〟と笑った。


「お前、中学校いくとき、たまにここの近く通ってただろ、その頃からだよ」


 大六は、廃工場を興味深そうに、いろんな角度から眺めては、目を輝かせていた。非常に興奮している。


 俺は廃工場の、玄関らしき引戸を開けようとした。金属製ではあるが、立て付けが悪くなっているので、途中から強引に、〝ガガガガガッ〟と引っ張り開ける。


「さぁて、どこにいるかな」


 大六は工場の中を見渡した。誰に荒らされたのかわからないが、ガラスや工業製品が散乱している。その中を、彼は奥の方へと迷いなく進んで行った。俺はスマホで足元を照らしながら後を追う。


「ちょっと待てって、置いてくなって…」


 大六の身勝手ぶりに、つい愚痴ぐちが出る。


「カブト虫じゃあるまいし、そんな簡単に悪霊が捕まえられるわけ……」


 室内のはずなのに、足場が悪い廊下を進み。いくつかの区画を抜け、やっと大六に追いついた。彼はその部屋の中央に立っている。


「進むの早いからっ!もうちょっとゆっくりで頼んます」


 俺は冗談交じりに言う。大六はそんな俺の方に顔も向けず、部屋の脇に置いてあるテーブルを指さした。俺はスマホのライトを恐る恐る向けてみる……。

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