化け物を狩るー完ー
「
亀山先生の言葉で、正面に向き直ろうとした瞬間、巨大化した坊主頭の方が、分厚い手で、張り手を繰り出してきた。張り手は俺の顔、胸、腕にぶち当たり、ソファや家具をなぎ倒しながら、部屋の隅に追いやられる。
俺は、物理的に頭がくらくらして地面にひれ伏した。
その様子を見て、2体の化け物が更に詰め寄ってくる。脱力した俺の頭を、巨大化した坊主頭の方が、アイアンクローのようにつかんで持ち上げ、体が宙に浮いた。
⦅ざえじゃんがえぜー、がえざないと、おばえのじんぞうをにぎりづぶづぞー⦆
そう言うと、アイアンクローをしている方とは反対の腕を、俺の胸に潜り込ませた。
〈大六、今だ!〉
意識が完全でない中、俺は大六に合図を送った。巨大化した坊主頭の太い腕を、彼が力を込めている右手で
すると、手の平から、さっきと同じ金色の光が一気に噴き出し、それに包み込まれた坊主頭が、光に縛られながらドンドン小さくなっていく。そして、そのまま、俺の手のひらに吸い込まれていった。
丸坊主の後方にいた、四角いなまはげ顔が動揺している。今右手から発せられた光に、自分の腕が巻き込まれていたようで、デンデン太鼓の腕が一本無くなっていた。
アイアンクローが
四角い顔は後ずさりし、狭い病室の壁際に移動した。恐怖を感じているようだ。血みどろの、今まで無為に殺してきたであろう人たちに、俺を止めるよう指示を出している。
しかし、彼らはそれに従わない、支配力が明らかに落ちていた。大六が俺の口をかりて言う。
「よう、あとはお前一匹だな。お前がこの人たちから
四角い顔が雄たけびを上げて襲い掛かろうとした。しかし、俺達のもとへたどり着くことができない。
周りの、血みどろの人々の魂が、四角い顔の体を押さえつけいるのだ。そして、その何十という人々が、我先にと、四角い顔の体から、何かを
剥ぎ取られた部分は、花や食べ物や、線香の匂いや、お経や、故人への温かい思いに変化して、血みどろの人々に
四角い顔は、もちろん抵抗しているのだが、振り払うことが出来ずにだんだん動きが鈍くなっていく。俺はその様子をしばらく
〈唯人、あれが、あいつらの力の源だ……。あの3人は死んだ時は普通の霊魂だった。
〈………〉
〈人の思いっていうのはさ、それだけで力の源なんだよ。食った霊魂を逃げないようにしておけば、その人のために捧げられた、何もかもを
四角い顔はもうボロボロになっている。剥ぎ取られたあとからは菊の花が所々から顔を出していた。
〈
俺は大六に聞いた。
〈そうだな、直ぐに
四角い顔はもう跡形も無い。大六が小鬼を召喚して、病室の床にできた黒い穴に、四角い顔の子供を引きずり込む。
血みどろだった人たちはそれぞれ光の玉になって、方々に散っていく。「ありがとう」とお礼を言っていくものもいる。
不意に一つのオーブが、亀山先生の方に流れて行き。先生の前で女性の姿となった。亀山先生が言う。
「小春、お前も捕まってたんだな。気づいてあげられなくてごめんな」
⦅仕方ないよ、こんなの誰にも見えないんだもん。でも、助かったよ。これも英生や、英生が連れてきた人たちのおかげだね。⦆
彼女は微笑んでいる。
「僕は何もしてないよ。彼らがお前を解放したのさ……」
亀山先生は少し上を見て目を
「もったいないよ、小春が生きてれば、きっといい医者になってたよ。また一緒に飲みに行ったり、馬鹿話したり、楽しいことがいっぱいあったはずなんだ。いい
亀山先生は声を殺して号泣していた。
「そうだねえ、私も悔しい。でももう過ぎたことだよ。諦めるしかないよね……もしさ、来世って言うのがあったら。また同級生で生まれ変わろうよ。英生となら楽しそう。それまではちゃんと生きていてね」
「…うん…、ちゃんと生きるよ。お前の分まで」
「じゃあね、わたし行くから」
「あー、小春、親御さん凄く悲しんでたぞ。逝く前に、そっちにも寄ってけよ。」
「うん、そうするよ。英生も頑張ってね。」
そういうと小春さんの霊はどこかに消えていった。俺と亀山先生は、全ての霊魂がいなくなるのを見送った。
あれだけのことが、この部屋で起こったにしては、部屋はそこまで荒れてはいなかった。
幸い、俺が吹っ飛ばされた壁にも穴は開いていなかったし、家具の損傷もない。移動机なんかが乱雑にひっくり返ったり、カーテンが外れているだけだった。
物音に気付いた看護師たちが部屋の外から、カギを開け、中に入ろうとしたそうだが、10分程度の時間、ドアがびくともしなかったそうだ。
亀山先生が、その辺の事情を、上手くナースたちに話をした。
「お騒がせしましたが、これで今後、この部屋は使えるようになったと思います。少なくても、異常な現象は起こらないんじゃないでしょうか。しばらく様子を見てください」
心辺りがあった看護士たちは〝ほんとかしら〟というそぶりを見せた。
「それより車椅子を用意してください。彼、今非常に疲れてますから」
と気を遣ってくれた。確かに疲れている。いつの間にか大六は俺から離れ、姿を消したていた。
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