あのVIPルームでは・・・

 翌日の夕方、知らせを受けた小春の両親が、飛行機で新潟に降り立ち、病院の霊安室で泣き叫んでいた。


 死亡確認後のCT画像には、脳に異常はない。心臓付近は、数時間に渡ってしんマをくり返していたため、心疾患しんしっかんの特定にいたる痕跡こんせきが分からなかった。〝心臓突然死しんぞうとつぜんし〟いわゆる原因不明の死亡と、親御おやごさんには告げられた。


 解剖かいぼうすれば、もしかしたら、原因が分かるかもしれなかった。しかし、小春のご両親は、その選択をしなかった。これ以上、娘の体を傷つけたくはないという、当然の理由からだろう。


 この病院にいる医療関係者には、すぐにこの情報は知れ渡った。他の病院に研修に行っている、小春を知る同期には、僕が直接電話をした。みな悪い冗談でも言ってるのだろうと笑っていた。



 数日後、簡単ではあったが、『小春をしのぶ会』が、彼女を知る人間の間で開かれた。


「おい亀山、関根の容態、どこかおかしいところは無かったのか?」


 医療関係者の酒の席だ、やはり、その辺のことは聞いて来る。僕は、考えられる要因は何もなかったと答えた。それを皮切りに話題は死因の考察こうさつになっていく。


 あーでもない、こーでもないと、みんな仮説を立てていく。僕は診察をしていて、知りえていたことは、全てみんなに提供した。


 ――――――――――。


「そうか、なら分からんなぁ……」


 ある程度、意見を交わしたのち、その場に沈黙が訪れる。


「あの…」と女性看護師の小田原さんが声を上げる。


「あのぉ……、根拠もないのに、こんなこと言うのもなんですが……関根先生が入院してた部屋で、彼女が亡くなる前日に……、私、子供の声を聴きました。」


「子供の声?」一同が注目する。


「そうです、私は脳外科に配属されて2年になりますが、その間、あの部屋に入院した4人の患者さんが、原因不明で亡くなっています。関根先生で5人目なんです。あの部屋、やっぱりおかしいんじゃないでしょうか? ……VIP《ビップ》ルームですから、あまり入院する人もいませんけど…、今後は閉鎖へいさした方がよくないですか?」


 小田原さんの話では、あの部屋は、ナースの間で、有名な心霊スポットになっているそうだ。それを聞いていた医師たちは


「何を馬鹿なこと言ってるんだ。そんなのありえない、何か原因があるはずだよ」

とか、


「そう言うこともあるかもな、お祓いをしてもらうってのも、いいんじゃじゃないか」

などの声が出た。


 僕は初耳だったが、否定も賛同も出来ないでいる。



 いろいろな話しが出たが、『小春しのぶ会』はお開きとなり、ただ、彼女が死んだというむなしさだけが残った。僕はさみしかった。




 2か月後、僕の研修先は違う科に移った。


 あのVIPルームは、その後も使用していたが、次に入って来た、大手企業の会長クラスの男性が、突然死亡したことで閉鎖され、現在に至っている。

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