大六の力

「大変だろ、夜もおちおち眠れてないじゃないか。それに今日のこと。お前の頭の中に、無造作むぞうさにいろんな気持ちが流れ込んだだろ?」


 俺は布団ふとんを跳ねのける。


「なんで知ってんだ?」


「なんでって…、俺はお前の守護霊みたいなもんだからよう。ずっと遠いところから眺めてたよ。残念だったな、お前は俺のことが認識できるくらい感覚が鋭くなっちまったということだ。」


「鋭くなった…?」


「そうだ、覚醒かくせいしたと言ってもいい。良いことでも悪いことでもないよ、そうだろ?俺らみたいなのが、見えない方が、普通の生活が出来る。見えていたら、何かと厄介事やっかいごとが多い。今のお前みたいにな。忠告はしたはずだぞ『放っておけば見えなくなる』って」


 俺は何と無くその情景を思い出す。確かに聞き覚えのあるフレーズだった。


「……俺にいてる奴等を、どうやって消すんだ?」


 彼は、お見舞いに来た人用の椅子に腰を掛けた。不敵ふてきな笑みを浮かべている。


「お前の力を使う。後ろの奴らと……そうだなぁ、まずは話し合いだろうな。それでも応じないときは強制的にあの世に送る。…それかしばり付けて悪さが出来ないようにするか…だな。やってみようか?」


 と、あっけらかんと言ってのけた。


「出来るなら…やってもらいたいけど…」


「嘘じゃねーぞ、俺にお前の身体からだあずけてくれれば、証明してやるよ」


 俺は〝ぎょっ〟とした。


「ダイロクさんだっけ」


大六だいろくでいいよ」


「体、乗っ取るつもりじゃないよね」


「ある意味、乗っ取るという表現は間違いじゃないな。まあ、そこは信用してもらうしかない。」


「………、今日みたいな、何もかもが見えてくる、感覚や現象も、抑えられるのか?」


「あー、あれか、悪かったな、急に見せちまって。あれはもう俺が抑えといた。お前の中の問題だからな。何かの拍子ひょうしに見えることもあるだろうけど…。あんなもんこの世で普通に生活するには、邪魔でしかないだろ。」


 嘘か本当か分からないが、俺はホッとした。人と会うたびにあんなに大量のイメージが流れ込んできたら、それこそ一人で山にこもるしかない。それをこの大六という少年が抑えてくれているというのだ。


 時計の針は、午前2時を回っている。そういえば、この時間に他の幽霊を一体も見ないのはおかしい。いや、こんなに長い時間眠れたことが、最近では無いことだった。


「俺についていた未成仏霊たちは、どこに行ったの?」


「今は俺が抑えてるよ。少し寝かせてやろうと思ってな。生きてんなら睡眠は大事だろ」


 大六がこちらを向いて、相変わらず微笑している。冗談や冷やかしを言ってるいる風では無い。


「……やってみてくれないか?どのみち、今のままなら学校にも行けない……。だけど、お前が悪霊だと思ったら、俺も抵抗するからな」


「ああ、それでいいよ。じゃ、やるからな」


 大六だいろくの霊体が、ベットで座っている俺の体に重なってきた。……不思議な感覚だ。俺の体に、俺と大六の二人の魂が混在しているのが分かる。


 指を動かしてみた。指は俺の指示通りに動いた。腕も足も顔もだ。これでこの体は大六に使われている状態なんだろうか?頭の中で声がする。


唯人ゆいと、後ろ見て見な。〉

 妙な感覚のまま振り返る。するとそこには、10体くらいの、見覚えのある霊達が、病室の壁に張り付いたり、忙しく浮遊したりしていた。

 多分こいつらが、俺をいつも困らせていた奴らだろう。思っていたより5体も多かった。逃げようとしているが移動できないようだ。大六がそうさせているのだろうか?


〈どうする?このまま逃がすか?〉


 俺は少し考えた。


〈…逃がせば…また違う人に憑くんだろ?〉


〈多分な〉


〈じゃぁさ…、そこに座らすことは出来る?……正座せいざで〉

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