奴らの罪は誰が裁く?
入院してから三日が経った。まだ、痛みがあるものの、普通に歩けるくらいには回復している。
運動のため、病院を散歩していると、もの凄くやばそうな場所を発見することがあった。ドアからドス黒い冷気が漏れている。そういうところには二度と近づかないよう気をつけた。
相変わらず夜は、未成仏霊たちの嫌がらせを受け続けた。病院ということもあって、数と強さが増している。
俺はもう、夜は眠れないんだとあきらめた。そして芽生えてきたのは、あの世にも行かず、この世にとどまってる奴らへの、怒りと憎悪だった。
『こいつらのせいで、また入院させられた。浅妻先生もひどい目にあっている。多分お腹の子の命まで奪われた。こんな理不尽があっていいんだろうか?奴らが生きてる存在なら、警察が罪を裁くのだろうけど、でもそれは無理だ。こいつらの姿が見えていないんだから…。じゃあこの罪は、一体誰が裁いてくれるんだろう……』
霊感は鋭くなったが、未だに神様の姿も、存在も、感じたことが無い。
自分の回りで起る怪現象に、何とか対処できる術を、身につけなければいけないと考え始めていた。そう思うと、金縛りや、ラップ音や、ポルターガイスト現象ぐらいで、驚いてる場合じゃないと思えてきたのだった。
同じ病室の人たちは、俺を気味悪がった。最初は俺が、夜中にカーテンを揺らしたり、何か音を鳴らしたり、声を出したりしてるんだろうと苦情を言われたが、何もしてないことがわかると、病院側に、部屋の移動を要求したらしい。
それを亀山先生は面白がって、同部屋の人たちにどんな現象が起こっているのか細かく聞いて回り、俺にどういうことかの説明を求めてきた。
同部屋の人たちに、その時どんなことがあったのかを説明すると
「先生、俺が部屋変えてもいいからさあ、移動さしてくんねえかなあ」
と本気でお願いをしていた。亀山先生は
「いや、そんな非科学的なこと、病院は認めていませんよ」
と、急に常識を持ち出して拒否をする。(変った人だなぁ)と思いつつ、同部屋の人たちに「すいません」と誤った。
実は亀山先生が、部屋の人たちを説得してくれたことは、非常にありがたかった。俺も人のたくさんいる部屋の方がいい。
入院中は昼間、人の動きがある時に眠ることができる。下等な奴らはそういう状況では出てきにくいらしい。しかし、一人部屋になるとそうもいかなくなる。夜とあまり変わりが無いのだ。
入院4日目の午前中、浅妻先生が私服姿で病室を訪れた。肩に大きなショルダーバックを掛けている。
「おはよう葦原君、調子はどう?」
夜眠れなかった分、これから睡眠をとろうと思っていた矢先だった。
「あ、先生、おはようございます。」
「うん、顔色はいいみたいね、よかったわ」
浅妻先生の調子もよさそうだった。
「長くなったけど、わたしは今日で退院なんだよ。お互い救急車で運ばれるなんてどうしたんだろうね」
「そうですね……」
少し沈黙があって、俺からまた口を開いた。
「先生も、そのぉ、お腹が痛かったんですか?」
「そうだね、腰も痛かったんだけど、それよりもお腹だったみたい。葦原君は?」
「俺は腹だけでした。」
「そう……」
また沈黙ができた。俺は浅妻先生に椅子をすすめる。先生は「じゃあ」といって遠慮がちに腰掛けた。浅妻先生が口を開く。
「あの時、突然、大きな声出したと思ったら、怖い顔して近づいてきて、ビックリしたんだけど……。何があったの?」
「いや…、すいませんでした…。何でもないんです…」
先生は、なおも聞いて来た。
「私に背中を向けて立ってたよね。正反対の方向いて。あれは?」
「いや、その…」
重い空気の漂う中、浅妻先生は切り出した。
「私ね…実は…お腹の中に赤ちゃんがいたみたいなの。その子をさ、今回流産しちゃったんだ。だから検査や何やらで、4日間も入院してたんだけど……」
先生は、こんなことを生徒に告白していいものかと、話しずらそうにしている。
俺はうつむき、そのまま声を出せないでいた。
先生の意識が流れ込んで俺の頭の中でビジョンとなる。
どうやら流産は初めてじゃないらしい、3回…、4回目だろうか。その都度、深い深い悲しみの底から這いあがっていた。
『また…ダメだった……。お腹にいたの気づいてあげられなくてごめんね。酷い目に遭わせちゃって…痛かったでしょう…。ダメなお母さんだね。私はきっと子供を産んじゃいけないんだね』
退院する前に俺のところに来たのは、生徒への挨拶もあったが、この流産の原因となった腹痛のとき、俺が不思議な行動をとっていたことが、どこか心の奥で引っ掛かっていたからだった。
(葦原君は、もしかしたら我が子の死と、何か関連があるんじゃないか?)
そんな気持ちからだった。
俺は、あのナイフ男から、小さな命を守ってやれなかったことを、本当に申し訳なく思った。
『あいつの気を
そう思うと目に涙が溜まり、大きな雫となって掛け布団に次々に落ちていった。
それに気づいた浅妻先生が、うつむいたまま泣いている俺の背中に、そっと手を置いて、静かに上下にさすりながら言う。
「もしかして……、あたしと赤ちゃんを……守ってくれたんじゃないの?」
語尾がかすれて声が小さくなっていた。
「先生、すいませんでした。赤ちゃん、守ってやれませんでした。見えてたのに、あんなに見えてたのに」
俺は悔しくて、申し訳なくて、更に肩が揺れるほど泣いてしまっていた。ベットの周りをカーテンで
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