桜井刑事の懸念 ー殺人事件発生ー
翌日の午前中、鶴巻警察署に出動要請がかかる。
内容は【23歳の男性が、一人住まいのアパートで、死亡している】というものだった。
俺は相棒の村井と共に、現場に急行し、先に
ひととおり内容を把握したのち、遅れて到着した鑑識と共に部屋に入った。
玄関からは被害者の足元が見えている。各部屋には、特段荒らされている形跡はない。
害者に接近すると、まず目につくのは
頭部には切り傷…、いや、切れてはいないが、細い線状のミミズ
(これは⁉……まさか……)
嫌な予感がした。俺は鑑識の許可を得て、仏の服をめくって、
「なんだろうな、これは……暴行のあとなんだろうけど…、複数人に袋叩きに合ったような感じではあるけど……、この細長い皮膚の腫れは特徴的だなあ、いったいどういう道具で着いた跡だろうなあ?」
と首をかしげている。しかし、俺と村井には見覚えがあった。二人で顔を見合わせながら、俺はわざと検視医に聞く。
「何だと思います?」
「もの凄く細い、鞭のようなものかなー?でもこんなに細く付くのか…?」
「刀の傷…、なんてことありますか?」
「刃物の傷ではないよ。皮膚が切れてないからね。でもこんなに一直線の腫れは見たことがない。詳しくは検視してからだな。」
俺も、村井も大いに引っ掛かっていた。検視医と言うのは医者であるから、死亡している時にしかお呼びがかからない。なので先日の、
とりあえず、死体の傷については、科捜研にお任せするとして、俺と村井は周辺住民の聞き込みに回った。
複数人による暴行殺人事件という扱いになり、鶴巻署の刑事八人も全員召集された。周囲には警戒ロープが張られ、夕方には報道発表される。
この日一日はバタバタとした。殺人が疑われる事件であれば、刑事課も一気に忙しくなる。社会的な注目も大きい。初動の聞き込みやビデオカメラの提供依頼も重要なため、一息つけたのは深夜になった。
おおかたの刑事が帰宅し、少し落ち着きを取り戻した署内の休憩室で、俺と村井は缶コーヒーを飲む。
「なぁ村井、あの傷…、そっくりだったよな。同じ傷に見えなかったか?」
「…そうだと思います。死亡していましたから、血色が悪いということもありますけど、葦原君と同じ傷に見えました。」
「だよなー。どうするかなー。」
俺は頭を掻きむしり、深いため息をついた。事件にはなっていないが、同じ管内で、同様の傷を負った高校生がいる事実を報告しないわけにはいかなかった。
「今日はバタバタしたから、課長と相談もできなかったが……」
肩まで、背もたれにくっつけるように座っていたソファーを、しっかりと座りなおして、
「明日は対策本部が出来るぞ。課長も葦原君の件は知っているし、相談して今後の方針を決めよう。」
そういうと村井も頷き、明日の会議の資料制作のため、デスクに戻るのだった。
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