刑事のアドバイス ー事情聴取編ー 完

「でも、まあ、君や親御さんが検査の結果も踏まえて、被害届け出を出さないと言ってくれたので、もうこの件は捜索しなくて済んだよ……ただし、今後は注意しなさい。葦原あしはら君の主張どおりに、幽霊の仕業だとしても、また別の理由だとしてもだ。人の厄介やっかいになるくらいまでみ込まないことだ」


 桜井刑事は真剣な眼差しでこちらを見た。俺は「…はい…」と返事をする。

 信じてもらえてないのは残念だ。だが、この刑事さんは俺と若月先輩のことを心配して助言してくれているのが分かる。そうでなければ、わざわざこんな席はもうけない。

 

 桜井刑事は『やれやれ』というような表情をしてホットコーヒーを一口飲んだ。

 そのあとは、飲み物を飲み終えるまで、時間つなぎの雑談をした。不意に桜井刑事が質問する。


「しかし、葦原君が言ってる幽霊の仕業が本当だとして、あの後、何かしらの霊現象とかはあったかい?」


「いえ、俺には……何もありません。」


 少し歯切れの悪い回答をした。桜井刑事はそれを見逃さない。


「何かあった?」


「……あの…、まあ…、あの日から、やたらと幽霊を見るようになって……夜も眠れないくらい金縛りに遭ったりするんです。今も後ろに、3体くらいは張り付いてます。」


 桜井刑事は、少し難しい顔をした。やばい、また調子に乗って余計なことを言ってしまったかもしれない。脱法ハーブの疑いが更に増したのだろうか?


「……なるほどね……」


「……すいません変なこと言って……」


 その後、沈黙が訪れる。


 桜井刑事はコーヒーを一口すすって切り出した。


「俺の知ってる人に…そういう…まあ、一般的にいう、霊能力を持ってる人間がいる……その人に相談してみるかい?」


 意外な申し出だった。さっきまでの話だと、霊の存在なんて信じてないような口ぶりだったから……。


「葦原君が言ってることが本当ならね…、君は今、相当困っているんじゃないかと思ったんだが……?どうする?」


 俺はその話に食いついた。


「ぜひ紹介してもらいたいです。お願いします。」


「………」


 桜井刑事は話を続ける。


「以前、捜査でお世話になった人なんだ…。捜査をしてると、つじつまが合わない証言や目撃情報もたまにある。それが殺人事件なら尚更ね。無理強いするわけじゃない、それでいて、俺から聞いたことも、絶対に話さないと約束してもらえるなら…だけどね」


 俺は何度も頷いた。

 桜井刑事はメモ紙を出し、スマホを確認しながら、それに名前と電話番号を書く。


「本来はネットで検索しても出てこない番号だ。探すのにひと手間必要なんだぞ…。しかし、この番号で一般の人の人生相談も受付けている。テレビにもよく出てた人だけど、十二 園子さんって聞いたことない?」


「知ってます。凄く有名な人ですよね。」


「そう、でも仙台の人だから、行くのに時間が掛かるし、予約で1か月待ちはザラだから、結構待つことになると思う…、親御さんとよく相談して決めなさい。私から聞いたとは、くれぐれも絶対に言わないように。」


「はい、わかりました。ありがとうございます。」


 本当に助かった。自分で霊能者を調べても、どの人が本物の霊能力者か、まるで分からなかった。でも警察の人が頼りにするくらいだから、この人なら間違いは無いはずだ。

 これで、俺の周りの霊現象は、全て解決するんじゃないかと思えた。しかし、若月先輩の方はどうだろう…?


「あの、桜井さん、この番号、若月先輩にも教えていいでしょうか?」


 桜井刑事は一瞬考えたが、すぐに答えてくれた。


「……そうだな、いいんじゃないか、彼女もそういうものに悩まされてるんなら、一度見てもらうのもいいだろうなぁ。」


「ありがとうございます。そうします」


 俺は桜井刑事に感謝した。やはり、その手の専門家に対応してもらわないと、〝アレ〟はどうすることも出来ない。これで若月先輩の家の事も、一気に片がつく。


 刑事さん達に、家の近くまで送ってもらったあと、すぐにSNSで、十二園子さんの電話番号と、どういう人なのかということを若月先輩に連絡した。先輩からは


『ありがとう、おばあちゃんに相談して、電話してみるね』と返事が返ってきた。


 実際、高校生の俺のできることはここまでで、これ以上の手出しはできない。強力で複数の亡霊が、若月先輩の家にはいた。本物の霊能者に見てもらえるなら、それが一番いいのだ。

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