刑事とファミレスで話す

「いや、悪かったね。急にこんなとこに呼び出して」


 学校で話した時とは、大分違う印象だ。普通に会話をしてくる。


「単刀直入に言うよ。君が意識を失って、負傷した件については、もう親御さんにも確認が取れてる。捜査自体は終わってるんだよ。だから、今からほんとのこと言ったって、これから罪に問われることも無いし、若月さんだっけ…、彼女に不利になることは何もない……。正直に言ってほしいんだけど、脱法ハーブとか……その可能性はないのかな?」


 人間味のある質問の仕方だった。俺や、先輩の身を案じて、注意しようとしているのだろうか?『実は…』と、新事実を吐いてしまいそうなシチュエーションでもあった。しかし、そんな事実はどこにもない。


「刑事さん信じてください、俺も若月先輩も、そういう薬の類は使っていません。あの時、病院でお話ししたのが全てです」


 桜井刑事は控えめに〝うん、うん〟とうなずいた。相棒の村井刑事はまっすぐ俺の方を見ている。


「いやね、こういう案件は難しいんだよね。現実には怪我をしてるのに、その原因が特定できない。葦原あしはら君は侍に襲われたって言うけれど、そもそも、幽霊を事件の加害者にするわけにもいかない。じゃあそれは誰にやられた傷なのかって話になる。わかるよね。」


「はい……」


「そうなると、当人達が嘘をついているのか、薬物中毒で幻覚を見ているのかってことになるんだよ」


 桜井刑事の言うことに矛盾はない。その通りだと思う。


「あの日、病院で君達の話を聞いた時、正直『何を言ってるんだこの子らは』と思ったよ。そうだろ?幽霊が傷害事件の加害者なんて誰が信じると思う?でも、君たちの証言に食い違いは無かったし、話の筋道も通っていると思った…。上手く口裏を合わせたね」


「………」


 桜井刑事は俺の方をしっかりと見始めた。


「警察としては、考えられる可能性は潰しておかないといけない。だから、薬物検査をした。しかし、検査結果は陰性、虚偽きょぎの証言の可能性は……、これは正直いって調べようが無かった。密室の行為だからね。聞き込みや、防犯カメラを使って、時間的な行動は追えても、部屋で何をしていたのかまでは、分からない…。彼女の部屋からは、君に傷を与えた凶器についても、それらしいものが無かった…。いったいどんな道具で遊んでたんだい?」


「道具なんて…、そんなもの……」


 俺は、『やはり、信じてもらえていなかったんだ』という失望感に襲われ、伏し目がちになる。


 桜井刑事は続けた。

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