刑事が学校へ来た

 また数日たった、ある日の昼休みのこと、


「一年A組、葦原君、職員室まで来てください」


 不意に放送で呼び出され、職員室に行く。浅妻先生が「こっちだよ」と言って、応接室まで案内した。

 そこには、見覚えのある男性が座っていた。それは、あの救急車騒ぎの時、病院にいた男性の私服警官だった。

 今日はもう一人、若月先輩に付いていた、若い女性の私服警官も連れてきている。


 応接室に入ると、彼らも立ち上がり、お互い会釈を交わす。部屋には校長先生、教頭先生、浅妻先生、俺、刑事さん2人の、合計6人が座り、少し手狭な感じになった。

 さっそくといった感じで男性警官が話し始める。


「どうも、鶴巻警察署、刑事課の桜井と申します。こちらは村井です。先日は捜査にご協力頂きありがとうございました。」


 改まって自己紹介をされ、こちらも頭を下げる。


「今日は、先日、葦原君から提出していただいた、尿と髪の精密検査の結果を、葦原君本人と学校側にご報告しにまいりました。結果は、何の異常もみられませんでした。これがその試験結果になります。」


 書面を見せられ、説明を受けた。桜井刑事がいう。


「葦原君、先ほど若月さんにも同じ報告をさせてもらった。彼女にも聞いたが、もう一度確認させてほしい、合法ドラック、またはそれに代わるような、変な味のするものを食べさせられたり、お香のようなものを、嗅がされたりはしなかったかい?」


 俺は、あの時をしっかり思い出して。頭の中で確認する。


「……はい、合法ドラックなんて、やったことないですし、誘われたこともありません。何も食べてませんし、変な匂いを嗅いだ記憶もありません」


 きっぱりと答える。桜井刑事は〝うん、うん〟と頷き、検査結果の用紙をしまいながら、


「わかりました。今回のことは、被害届出の提出はしない、と言うことでいいんだね?」


「はい、被害届出は出しません」


「分かりました、じゃあこの件はこれでいいですね」


「はい」と俺は答える。


「あと、親御さんにも確認を取りたいので、授業が終わったら電話もらえますか? 葦原君、スマホ持ってますよね。」


 と桜井刑事に名刺を渡された。


「学校が終わったら私の携帯に電話してください」


 名刺には『鶴巻警察署 刑事第一課 巡査長 桜井 裕司』と書いてある。


――――


 放課後になり(部活は今日も欠席だな)と思いつつ、帰り支度を済ませ、桜井刑事に電話をかけた。


「あー待ってたよ、今から迎えに行くから、校門にいてもらえるかな?」


 言われるまま校門の前で待っていると、刑事さんが乗った車がすぐ到着した。助手席からウィンドウを開け、「乗って乗って」と気さくに声を掛けられる。

 俺は後部座席に乗り込んだ。もう一人の若い女性刑事の村井さんが運転をしていた。

 その車は、パトカーではなかったが、無線機やら、ヘルメットやらが物々しく置かれている。


 車はそのまま出発し、俺の住んでいる吉川市のファミレスで停車した。店の中に入り、刑事二人の相向かいの席に座らされる。

「なんでも注文していいよ。」と言われ、ドリンクバーをお願いした。刑事さん達も同じだった。そして、桜井刑事が話し出す。

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