霊障を受ける日々


 あれから数日が経った。


 亡者にめった刺しにされた日を境に、俺の霊感は鋭さを増していく…。


 昼夜、場所も問わずに、普通の人には見えないモノたちの姿を、頻繁に目撃するようになっていた。背後には、常に何体かの未成仏霊達が張り付いてる。 

 いつも誰かに見られている感じがして、何をされるか分からない。俺は完全に取り憑かれている状態であった。


 彼等は、殺されたときの無念さだったり、自殺した時の閉ざした心だったり、病気で亡くなったときの痛みだったりを、ずっと引きずっている…。この未成仏霊たちは、死ぬ直前の一番辛い場面で、時が止まっていた…。


 俺は、毎夜、何度も金縛りに遭わされ、脅かされ、完全に睡眠不足になっていた。

 寝ている時が一番無防備になり、彼らも手を出しやすいらしい。


 電気を消した部屋で、どこからか家鳴りが続いたり、誰かの人影がおぼろげに見えたり、そうかと思えば、突然金縛りをかけらたりした。

 進化した3Dの、体験型お化け屋敷に、生きて朝を迎えられる保証もないまま、毎日、日が昇るまで放り込まれている気分だった。

 だんだんと気持ちも落ち込んでいく。


(このまま取り殺されてしまうんじゃないか)


 と本気で思い始めていた…。


―――


 俺は、体のミミズ腫れや青痣が、まだ生々しく、部活にも参加できないでいた。

 しかし、若月先輩の状況が気になり、SNSチャットで、その後に異変がないかを聞いてみる。若月先輩の返事だと、あの日以来、霊現象は治まっているとのことだった。


 若月先輩の部屋で何があったのかは、彼女があまり心配しないように、手短に電話で話しをしていた。


『先輩の部屋に入ったら、着物を着た女の人がいたんです。その人から事情を聴こうと思って話してるうちに、段々と意識がなくなって…。体の痣は何が原因かよくわからないんです。でも今は何ともありませんから…。ただ、着物を着た女の人は先輩を守っていたみたいでしたよ。』


 といった具合だ。

 若月先輩は、とりあえず納得してくれたようだった。そして俺の体のことを、しきりに心配した。


 あの花魁達は先輩に危害を与えようとしてはいない。けれど、先輩のお母さんを自殺に追い込んだのは彼らかもしれない。そう思うと、やはり放ってはおけないのだが、今は自分の事でいっぱいいっぱいだった。

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