負傷と霊現象の説明

―――――


「嘘じゃないんです。先輩の力になれればと思って……。踏み込みすぎたのかもしれません……。だけど、あそこまではっきりと幽霊と会話したこともありませんし、あんな風に攻撃されたのも初めてのことだったんです……」


 精一杯、強い侍の亡霊に攻撃されて、このように負傷したのだと訴えてみた。こういうのをはたから見れば、荒唐無稽こうとうむけいというのだろう。自分で説明していてもうすら寒く感じる。


「うーん……わかりました、ちょっと待っててね。」


 男性の私服警官は、難しそうな顔をして、お医者さんと一緒に部屋を出て行った。ほどなくして戻ってくると、


「さっきの話、信じてないわけじゃないけど、一応検査をさせてください。」


「なんの検査ですか?」


「大麻とか、覚せい剤とかの薬物検査になりますけど、協力してくださいね。」


 鑑識かんしきのような警察官が、追加で何人か病室に入ってきた。尿を採取され、その場で説明を受けた。

 検査液の色は何も変わらなかったが、それらを持ち帰って、再度詳細な検査するそうだ。


 薬物で幻覚を見ていた訳じゃない。多分先輩も同じ検査をしただろう。髪の毛も何本か持っていかれた。


 全ての聴取、検査が終わり、それを先導していた男性私服警官が


「また連絡します」

と言い、他の警察官を引き連れ、病室から引き揚げていった。


 俺は体中に痛みがあったものの、翌日には退院した。医学的には打撲だぼく擦過傷さっかしょうという診断になり、歩くことも出来たので、これ以上の入院の必要が無いと判断されたのだ。


 家に戻ってから両親に、先輩の家で何があったのかを、かいつまみながら説明した。


「またあんたはそんなこと言って…あの子をかばってるんじゃないの?」

と母親に言われ、


「信じてもらわなくてもいいけど、本当なんだって。先輩は何もしてないし、俺も何も悪いことしてないから」

と言い返した。


「……何にしても、もうあの子の家には行かないでよ。昔から唯人はそういうのが敏感なんだから、その話が本当ならなおさらよ」


 と母親に注意され、家でのこの話は終わりになった。


 次の日から、俺は普通に学校へ行った。登校するとすぐに職員室に呼ばれ、会議室で、担任の浅妻先生から事情を聴かれる。


「おとといのことは警察から学校にも連絡が入ってたから……、クラスのみんなには『カゼ』で休んだことにしてあるけど……、脱法ドラックとか使ってるわけじゃないよね」


「そんなの使ってません」


「若月さんとみだらな行為とか…、してたわけじゃないんだよね。」


「してません。警察の人にもきちんと話しましたし、俺が勝手に貧血か何かを起こしただけだと思います。」


「体も大丈夫なの?」


「はい、大丈夫です」


 浅妻先生は「わかったよ、信じてるからね」といい、教室に行く許可をくれた。


 教室に入ると新之介が「唯人、大丈夫かよー」と笑顔で駆け寄って来た。


 学校に来るのが、凄く久しぶりのような気がしていたが、この一言で、俺はまた日常に戻ることができた。

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