警察の事情聴取
次に目覚めたのは病院のベットだった。
天井の長い蛍光灯、ベットの周りの仕切りカーテン。椅子に座る俺の母親…。
母の
「母ちゃん…」
ハッとしてこちらを向き、俺が目覚めたことを知った母は、
「目ぇ覚めた?気分はどう?」
「…ぼーとするけど…大丈夫」
そういうと、
「今お医者さん呼ぶからね」
とナースコールのスイッチを押した。
ほどなくして、男性の医師と女性の看護士が来る。ベッドで寝ているのも、お医者さんに対して失礼なような気がして、体を起こそうとして全身に痛みが走った。
「あー、まだ無理しないでくださいね。寝てて大丈夫ですから。何があったか覚えてますか?」
もちろん覚えていた。この痛みの感覚、痛む部位。これは侍たちの刀傷であった。
点滴をされている腕を、自分の見える位置まで恐る恐る持ってくる………。よかった、腕の肉はしっかりとつながっていた。だが、
出血した
俺は医者の質問に答えず、
「若月先輩はどこですか?」と返す。
すると、横から母ちゃんが口を出した。
「やっぱりあの子にやられたの?いったい何してたの?」
「先輩は何もしてないよ。俺も変なことはしてない…。とにかく先輩に会わせてほしい……」
そう俺が言うと、医者は俺の体の状態が、正常なのかを調べ始めた。
簡単に聴診器をあて、呼吸の音を聞く。
指を三本かざし、「これ何本に見えますか」と聞いた。もちろん「三本」と答える。「今痛いところある?」と聞かれたので、「全身痛みますけど、じっとしていれば痛みは無いです」と答えた。
確認を終えて、医者は若月先輩を呼ぶように看護士さんに伝えた。
しばらくして、警察官に付き添われながら彼女が姿を現わす。
「ごめんね、大丈夫?」
先輩は、すぐに泣き崩れて俺に顔を近づけた。
「先輩は何もなかったですか?大丈夫ですか?」
と俺が聞くと
「うん。大丈夫だよ、ほんとにごめんね。」
と返事が返ってくる。
俺が若月先輩の部屋で気を失っているところを、彼女が発見して、119番通報したのだそうだ。そして救急車で病院に運ばれたのだが、通報状況から、事件性があると判断されて、警察も呼ばれ、先輩は事情聴取されていたのである。
一通り話し終えると、若月先輩は、二人いる私服警官のうち、若い女性の方に連れていかれ、部屋を出た。
俺はその場に残った、45歳くらいの男性私服警官に尋ねられる
「何があったのかな?」
返答に困った。なんと言えばいいのだろう?とりあえず出た言葉は
「先輩は何も悪くないんです」
だった。
「なるほど。では、そのミミズ
「………」
話したいのは山々だけど、あれだけの霊現象を素直に信じてくれるものだろうか。
先輩が悪者にならないようにはぐらかそうと思っても、俺の体中のあざや腫れは、嘘のつきようが無かった。
だが、何も話さなくても、この傷に対する先輩の疑いは晴れないだろう…。これはもう正直に話すしかないと思った。
周囲を見ながら押し黙っている俺を見て、男性私服警官が
「事情聴取ですので、お母さんも、少し部屋を出ていただけないでしょうか?」
と
病室には俺と私服の警官と、お医者さんの三人だけとなった。
俺は、少し深呼吸をして話し出す。
「どうしてこうなったのかは覚えています。信じてくれるかわかりませんが、正直に、本当のことをお話します。」
と言い、スーパーで先輩に出会ったときの出来事から、順に話していった。――――――。
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