怪現象が起る家  ー入り込んだイメージー

 これは…薄暗い室内である。


 昼間ではあるようだが、電気をつけていないので、明かりがほとんど入ってこない。 

 2階建てのその建物には、いろんな道具が雑然と置かれていた。


 この場所は……どこかの農作業小屋だと思う。


 そこに、一人の年配女性が入って来る。彼女の容姿には見覚えがあった……。


 作業小屋の道具をひっくり返しながら、何かを探している。手にしたのは…やはりロープだった。


 彼女は、むき出しになったはりに、梯子はしごを使ってロープをくくり付け、その垂れ下がった端末たんまつで、首を吊るための輪っかを作った。

 周りにはいつの間にか、大勢の幽霊達が陣どっている。

 しかし、無心で作業をする彼女には、その姿は見えていないようだった…。


 年配の女性は、ホコリがたまっている階段の中段に静かに座り、しくしくと声を殺すようにして泣いている。そして時折、その声が前触れもなく大きくなった…。彼女の無念さが伝わってくる…。

 

 ―――――


 数分後、ゆっくりと腰を上げると、覚悟を決めたように、目の前の輪っかを見つめた。


 集まった幽霊の中には、今日、玄関から先輩の部屋の入口までで見た奴や、あの鮮やかな着物を着た花魁の姿もある。


 彼らはそのほとんどが、表情もなくただ静観しているだけだが、中にはロープを取りやすく誘導したり、首から外れないように、小さく絞る所作をする奴等もいた。


 実際には物質的に、何かが動いていたりする訳ではない。だが、死へといざなっているのがよくわかる。


 年配の女性は、やはり若月先輩とスーパーで一緒にいた人だった。つまり、先輩のお母さんだと思われる。

 

 二階に続く階段のだいたい中央にいて、一歩下段へと足を踏み出せば、それでこの人の人生が終わる。


 女性は最後の一歩を、震えながら、泣きながら躊躇ちゅうちょしていた。

 その時、彼女のもとへ、一体の男の霊が近づいた。両手で女性の顔を包み、優しく呟く。


⦅大丈夫夫だ…、怖いことは無い……。俺と一緒に行こう⦆


 女性にその声が聞こえていたかはわからない。しかし、一度軽く頷いてから、彼女は目をつむり、階段からの一歩を踏み出し、首に全体重が載ったまま宙に浮いた。

 両手を首にやり、少し藻掻もがいたが、すぐにあきらめがついたようだ。そのまま絶命して――――、そして、発見されるまでの数時間をかけ、首が2倍に伸びたのだった。

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