首長の幽霊 ②

〝しまった〟そう思った。


 たまに変なモノが見えてしまうが、これはもう無視することが出来ない。首長の女性にも、こちらが見えていることを知られてしまっている。


 若月先輩は、俺の強張った顔と、俺が凝視している、何もない空間とを、交互に確認し始めた。

 やがて彼女が掴んでいた俺の右腕に、自分の両手を絡めつつ、ゆっくりと俺の背後に回り込む。

 丁度、若いカップルがべったりと腕を組んだ格好になり、俺・若月先輩 対 首長女性の位置関係になった。


 一瞬でも気を抜くと、そこから一気につけこまれそうで視線がずらせない。

 俺は視線はそのままに、左手を先輩の手に重ね、少しでも安心してもらう様に努力する。

 若月先輩も何となく状況を理解している様で、押し黙って更に体を寄せた……。

 

 しばらく、にらみ合いが続いたが、首長の女性は笑みを浮かべたまま、スーと姿を消し始める。

 俺は完全に消えるのを見届けて、フーーッと息を吐いた。息を止めていたつもりはないけれど、極度の緊張のせいか呼吸を抑えていたようだ。冷汗もドッと噴き出した。


 首長の女性はいったいどこに消えたのか?

 見える人間に正体がばれて、一時的に姿をくらましているだけなのか?

  それともすぐそばにいて、今度は何かをしてくるのか?

 何にしても、一時的に危険は去ったと思いたい。


 若月先輩は、力を抜いた俺の様子を見て、カバンからハンカチを取り出して、黙って差し出した。


「あっ、ありがとうございます。」素直に受け取って汗を拭く。


「葦原君…、何が見えたの…? 何がいたの…?」


 若月先輩にも心当たりがあるに違いなかった。そうでなければ、別れ際に、会釈を一回、余計にしただけで、あんなに食い下がりはしない……。俺は正直に話すことにした。


「よく分からないですけど…、女性の幽霊を見ました」


 冷静さを取り戻してきた俺たちは、スーパーの入り口近くで、高校生の男女が手を握ったり、真剣な顔をしてずっと話しているのはよろしくないと思い始め、場所を変えて話すことにした。

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