八重 新之介 と 後藤 紗希

「唯人―、もう入る部活決めた?」


 昼休み、クラスメイトの新之介が、弁当を持って俺の前の席に座り、そろそろ決めなくてはいけない部活動について聞いて来た。


「いや、まだ決めてないけど…、新之介は決まった?」


「んー、まだなんだけどさぁ、やっぱバスケ部かなぁ」


 机の上に肘をつき、手に顎をのせて彼は考えている。

 俺に話し掛けているのは、八重 新之介(やえ しんのすけ)。彼は身長が185センチもあり、顔もシュッとしたイケメンだ。多分、今年入学してきた新入生で一番かっこいいのではないかと思う。


「あんまり道具がいらないスポーツがいいんだよねー…、唯人、今日バスケ部見に行かない?」


 特に断る理由もなかった。俺は中学時代バスケ部だったし、新之介と同じ部活に入るのも面白そうだ。


「いいよ、行こうぜ」


 と彼の誘いに乗った。そこに、一人の女子が駆け寄ってくる。


「ねえ、ねえ、また違う子が新之介とお話ししたいって言って来てるんだけどぉ、どうする?時間ある?」


 教室に戻ってくるなり、クラスメイトの後藤 紗希(ごとう さき)が彼に詰め寄った。女の子と会話するのが前提のいいようだった。新之介がやれやれといった表情で彼女に返事をする。


「話があるならさー、自分で来いって言ってくんないかなー。なんで紗希が取次ぎ役になってんだよ。」


 後藤は俺達に顔を近づけて、小声でいう。


「そこは女社会の難しいところなんだよねー。教室の入口にいる、真ん中の女の子なんだけど、笹川さんっていうんだって、ちょっとだけでいいからさー」


 彼女は面白がってるのが半分、困っているのが半分というような笑顔を浮かべ、両手で小さく手を合わせた。


「…わかった、でも今度からそういうの無しね。声かけてくれれば話くらいするからっていっといてよね。」


 そういうと新之介は爽やかな笑顔になって教室の入口に向かっていく。


 違うクラスの女の子が彼のお言葉を頂き、キャーキャーといっている。俺はどちらかと言えばうらやましい。


「葦原君ごめんね。お昼の邪魔しちゃって」


「ああ、いいよ。新之介は、性格もいいしね、仕方ないよ」


 最近、後藤ともよく話すようになっていた。彼女は活発で、誰とでもすぐに仲良くなれる性格だ。スレンダーな体系で、可愛らしい顔立ちをしている。活発過ぎて、肩下まであるストレートヘアーの毛先が、いつも少しだけ乱れていた。そして新之介には意地悪をする傾向がある。


 入学してすぐに、新之介と仲良くなり、彼から後藤紗希を紹介された。幼馴染で、小、中、高とも同じ学校、更に今現在が同じクラスというのは、結構珍しいケースじゃないだろうか。俺は続けざまに聞いた。


「後藤はいいの?幼馴染でもさ…好きとか嫌いとかあるんじゃないの?」


 彼女は、他の女の子と話をしている新之介の方に向き直り、


「うーん、あたしもさぁ、もうよくわかんないんだよね、そういうの。兄妹みたいな感じなのかなぁ」


 と、無表情で言う。俺は余計なこと聞いてしまったと思い話題を替える。


「そう…、まあ大変だね…。ところで後藤は部活、何に入るか決めた?俺らは放課後バスケ部見に行くんだよ」


「そうなんだ、バスケ部かぁ、私、中学の時バスケ部だったんだよ。高校もそうしようかなあ」


「一緒に行く?」


「今日は用事があっていけないんだあ。明日行ってみようかな」


 新之介が女の子たちに手を振り、こちらに戻ってくる。笹川という子にもらった手紙を、さりげなく制服の内ポケットにしまい、何事も無かったように

「よし、弁当食べようぜー」

と言ってきた。俺も後藤も、その手紙が気になった。


「手紙、どんな内容?」


 と、後藤が聞く。彼は少し無気になって


「いいんだよ。帰ったら読むから」


 と顔を赤くした。面白がって彼女が更に突っ込む。


「今週中にキスまでいけそう?」


 新之介が頭を切り替えて、あごを捨ぐり上げながら反撃する。


「キスまでいった方が良いのかよ」


 すると後藤は、いたずらっぽくはにかんで、


「不潔!新之介が悪い狼になるところなんて見たくない」


 と言い、クラスの女子の集団の中に、小走りで駆けていった。

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