第1章 ~少年の目覚め~
教室の幽霊
第一章 ~少年の目覚め~
〝カリカリ、シュー、ダンダン、カリ〟
国語の授業中、担任の浅妻先生が黒板に文字を書いている。
「はい、じゃあこの場所を…山口さん読んでみて」
スーツをピシッと着こなし、片手にチョークを持った姿は、やり手のキャリアウーマンを思わせる。
俺の名前は、
山口が起立して言われた部分を読み始めた。浅妻先生は乱れた髪をかき上げながら、彼女の読む文章を目で追っている。
先生のいる教壇の横には、もう一人、人間が立っている。よれよれのワイシャツにネクタイもなしで、彼女の方をジッと見ている中年の男だ。
それは授業か始まってからずっと、先生と同じ壇上にいた。右手には小さめのサバイバルナイフを持っている。
体全体の色が、若干モザイク調だ…、シチュエーションに存在が合っていない…、教室のみんながザワつかない…。つまりあいつは幽霊なのだ。
小さい時からそういう〝この世ならざるモノ〟を何度も見てきた。周りに話しても頭がおかしいと思われる。こいつらは関わるだけ損な存在なのだ。
いつの日からか、そういうモノを無視し始めた。無視をすると、それほど害のない奴らだということがわかってきた。
それに、多少見えるというだけで、俺に霊能力なんてものは無い。テレビや動画で見るような、除霊、浄霊、お祓いみたいなことは、一切出来ないのだ。
――――
国語の授業も、もうすぐ終わろうかというところで、壇上の中年ナイフ男の表情が変わる。何かに怒っている様子で、急に肩で呼吸をし始めた。そしてズカズカと浅妻先生の正面に移動し、サバイバルナイフを構える。
次の瞬間、男は
刺された傷口からは、大量の血が流れ出す。壇上はみるみる朱に染まった……。しかし、それは現実のものでは無い、血の色がモザイク調であった。
先生は一瞬、顔を歪めたが、何事も無いように授業を続けている。中年ナイフ男は、何度も何度も、サバイバルナイフで腹部を刺し続けた。
多分痛みがあるに違いなかった。先生はそれを隠すように
俺は
「見えてんだぞ、この野郎!」
すぐさま壇上に駆けていき、そう言ってやりたかった。
浅妻先生が脂汗をかき始めたところで、男は気が済んだのか、高らかに笑いながらスッーと姿を消す。それと同時に流れ出た血も消えていった。
クラスの生徒たちが、先生の異変に気付いて「先生大丈夫ですか?」と声をかけた。浅妻先生は
「あはは、大丈夫だよ、軽い立ち眩みだから」と虚勢を張り、授業を続けた。
胸糞わるいものを見せつけられた。あのナイフ男は、陰湿で卑劣な悪霊だったのだ。しかし、それを見ているだけで、止めもしなかった自分にも、無性に腹が立った。
休憩時間になり、手洗い場で顔を洗い、気持ちを落ち着かせる。
あの男は入学式のオリエンテーションの時から、たまに先生のところに現われていた。行動を起こしたのは今日が初めてだ。
しかし、この高校にいる幽霊は、あいつだけじゃない。
毎日、毎日、定期的に屋上から飛び降りる男子生徒がいる。
教室や廊下を彷徨っている浮遊霊の数も多い。得体のしれない形をした、はっきりしない人影のようなものも、よく見かける。
普通はこんな風に、
土地柄なのか、高校という場所がもともとそういうものなのか、その原因は全く分からない……。そして、分からなくてもいいと思っている。
これからも同じなんだ。俺が騒いだところで、あの中年ナイフ男をどうすることも出来なかっただろう。
何とかした方が良いとは思うが、そのうち、浅妻先生から、自然に離れていくことだってある。
所詮、幽霊の出来ることなんてたかが知れているんだ。実際にお腹が切れて血が噴き出したわけじゃない。そっとしておけば、全ては丸く収まるんだ。これまでだってそうだった……。
だから俺は、この見えるだけで何事も
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