第7話 遊園地にて(3)

「ねえ詩織、お化けって信じる?」

「…ここお化け屋敷なんだけど。うん、って言うしかなくない?」


話をやめさせるためにお化け屋敷に誘ったのは私だけど、このお化け屋敷、妙にクオリティが高い。廃墟の病院って…テーマからして怖い。


「…足音が多くない?」

「え!?やめてよ、どうせ私と清二の足音しか…ー。」


歩くのをやめると、カツカツカツ…とこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。

ゾワ…と鳥肌が立つ。だんだん近づいてくる足音と、速くなる鼓動がリンクする。

思わず掴んでいた清二のTシャツの裾を強く握る。


「清二、早く行こうよ…。」

「え?なんで怖がってるの?別に何も聞こえないし…。」

「怖いの、私こういうのダメ。」


お化け屋敷に自ら入ったのだが…今はスッと血の気が引いていく。

あの時の感覚と似てる…家で留守番してるとき水道の蛇口から雫がぽたぽた落ちてる不気味な雰囲気。


『…なんで逃げるの?』


後ろから誰かに肩を掴まれて、「ひゃっ。」と声をあげる。


「詩織!」


いつの間にか掴まれていた手を引かれるまま、清二と出口までダッシュした。自分の心臓の音がなぜか大きく鳴り響く。


「さすが廃墟の病院…怖かったね、詩織。」

「こ、怖くなんてないし!」

「『怖いの、私こういうのダメ。』とか言ってたくせにね。」


これ以上からかわれたらひとたまりもない。


「うるさい!…もう夕方だね。そろそろ閉園の時間に…ー。」

「最後。観覧車乗ろう。」

「私なんかと乗ってもいいムードになんかならないから。」

「俺の誕生日なんだけど。」

「…はい。」


『俺の誕生日なんだけど。』で今日はだいたい丸め込まれた。夕方のオレンジ色の日差しで、観覧車のガラス窓は光っていた。


「…この観覧車、結構高くまで上がるんだね。」

「最後はこれに乗るって決めてたから。」


カバンの中から、綺麗に包装された袋を取り出す。


「誕生日、おめでとう。」


別にこのプレゼントに特別な意味はない。前貰ったコーヒーカップのお返しみたいなものなのだから。


「…マジか。詩織から貰えると思ってなかった…。」

「文句あるの!?」

「…嬉しいだけだから。」


照れ…てる?

ふふ、と笑みをこぼす。ちなみに中身はマフラーである(手編みではない)。


「詩織。」

「え?」


手を握られて、清二の目を見る。なんだろう、すごくいい雰囲気…。


「詩織はすごく強い。だから人に弱みは見せない。我慢強くて、一生懸命。俺は詩織のそんなところが好きだ。」

「えと、ありがとう…?」

「でも、ちゃんと弱みを見せてほしい。だから、一番そばに居たい。」


真っ直ぐに見つめられて、思わず目をそらす。

どうしよ…ドキドキしてる。一呼吸おいて、再び話し始めた。


「…私は好きな人と付き合いたい。だから、清二のことを好きになったら…自分から う。お願い、返事はもう少しだけ待って。」

「…わかった、待つから。ありがと。」


ちゃんと、自分が好きだって自覚したら。好きだって…伝える。

だから、真面目に考える。


観覧車を降りた。もう少しで陽が沈んでしまう。その前に、バスに乗らなければ。


「詩織、今日はありがとう。帰ろう。」

「…まぁ、私もなんだかんだ楽しかったし。こちらこそ…ありがと。」


「…水無清二?」


遠くから声をかけられて、清二の視線がそっちにズレる。私も振り向いて、声の主を見た。

そこに立っていたのは、同い年くらいの女の子。


「…ハル。」


                        つづく(遊園地編・完)



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コーヒーとミルクの比、5:5で。 @Behappy

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